なでしこリーグは4月2日から4日までの3日間、大阪府堺市のJ-GREEN堺で「U-15プレナスなでしこアカデミーフェスティバル2026」を開催した。期間中の3日、なでしこリーグの海堀あゆみ理事長と大阪府サッカー協会の永島昭浩会長が「サッカーの力で、未来と多様性を育てる」というテーマで対談。サッカーを通じた人づくり、女子サッカーの普及、多様性のある社会の実現などについて意見を交わした。
◇地域の多様性とサッカーの価値
――まずは「地域の多様性」や「サッカーの価値」についてお聞きします。なでしこリーグは「地域に愛される」というビジョンを掲げ、大阪府サッカー協会も「平和や多様性への貢献」という方針を持っています。女子サッカーを通じて、地域にどのような豊かさをもたらしたいとお考えでしょうか。
永島(会長) なでしこリーグと大阪府サッカー協会が考えていることの根底には、サッカー界の理念である「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献すること」が大前提にあります。この「J-GREEN堺」に多くの利用者がいることは、社会や大阪府、日本全体にとっても非常に重要です。海外からも人が訪れることを考えると、サッカーだけに提供するのではなく、子供から大人、障がいのある方も含めて、サッカーに限らず体を動かす喜びを感じてもらえる機会をつくることが重要だと思っています。大阪府サッカー協会としては「FOOT ALL(フットオール)プロジェクト」を始動しており、サッカーが社会に対していかに意義のあることを提供できるか、このJ-GREEN堺を最大限有効活用することを考え、行動するようにしております。

海堀(理事長) 選手が地域の中で生活し、企業で働いたり、学生として過ごしたりと、多様な在り方があります。チームからは「選手がいることで会社が明るくなった」という声も聞きます。選手は同僚にとって共に仕事をするパートナーでもあり、憧れの存在でもあります。現在、全国に24チームありますが、それぞれの地域に根差し、各地の課題やビジョンに合わせて活動することで、その場所がチームらしく豊かになっていくことが大きなポイントです。女子サッカーを通じて地域を元気にし、他競技とも協力しながら、性別や年齢などのボーダーを超えていけるのがスポーツの魅力です。女子サッカーが軸となり、皆さんと一緒にやっていければと思っています。
◇サッカーを通じた社会貢献と普及の意義
――社会的価値という部分では普及も重要です。単なる競技を超えて社会貢献していくために、競技人口の裾野を広げることがどのような社会貢献につながるとお考えですか。
永島 サッカーの試合時間は90分間ですが、1人がボールに触れる時間は3分ほどで、残りの87分間はボールに触っていません。つまり競技面で言うと、技術とは関係ないところでチームを支えたり、組織を守ったりしています。普及の場において、技術の高い子が試合に出て、低い子が出られないという状況を抜本的に変えたいと考えています。ボール扱いがうまくなくても、ボールのないところでチームに貢献している子もいます。そうした子を評価して育てることで、子供たちがスキルを身につけ、将来のキャリアアップにつながるような自信を持ってもらうことが重要です。一流のサッカー選手にならなくても、健全で素晴らしい人生のスキルを身につけてもらう。指導者や運営側もその点を理解して接していくことが重要だと考えています。
海堀 まず、サッカーに触れる人が増えてほしいです。サッカーは国や言葉を越えて通じ合えるスポーツだと思っていて、ボール一つあれば友達になれるスポーツだと思っています。日本のサッカーは、競技性の高いトップ層とエンジョイ層の両方を目指すダブルピラミッドの形を理想としています。プロにならなくてもサッカー人生が終わるわけではありません。引退後の関わり方や、子供たちのボランティア、ボールパーソンなど、多様な関わり方から夢や希望、生きる力が生まれます。2011年の震災時、選手だった私は「サッカーをやっていていいのか」と不安でしたが、引退後に各地を回ると「あの時、生きる力をもらった」という声をいただきました。サッカーには人の人生を変える力があります。一人一人がどのような形でもいいのでサッカーに触れ、心が豊かになることが、結果的に最大の社会的価値になるのだと思います。

◇U-15フェスティバルの意義
――フェスティバルが行われている中学年代についてお聞きします。環境の変化などで競技継続のハードルが上がる時期ですが、この大会では順位をつけず、多くの選手に実戦の場を提供することを大切にされています。勝敗のプレッシャー以上に「プレーを楽しむ機会」が保証されることは、選手の将来にどのような価値があるとお考えでしょうか。
永島 昨今、世界的に子供たちのSNS依存や考える力の低下が課題となっています。JFA(日本サッカー協会)の「こころのプロジェクト」で子供たちと接する中で、「失敗してもいいんだよ」と声をかけると、「えっ、いいんですか?」と驚かれることがあります。多くの子供が「失敗してはいけない」という恐怖心を抱き、チャレンジする機会が減っているように感じます。しかし、サッカーは失敗の連続です。失敗しても次にチャレンジしていく。自分の個性を生かし、失敗を恐れずに表現し、成功の喜びを分かち合う。この大会がそのような機会を長年提供し続けていることは、大阪府としても非常に誇らしく、ありがたいことだと思っています。

海堀 アカデミーフェスティバルは、アカデミー世代の選手たちが集まり、試合や交流を通して競技力の向上とともに、人としての成長を目指す場だと考えています。この世代は、活動する環境がないという点が全体の課題としてあると思っています。地方では同世代だけで戦える場をつくるのが難しい場合もありますが、この大会があることで選手たちの大きなモチベーションにつながっています。なでしこリーグがU-15チームを持つことは、この世代の活動できる環境をつくること、また地域での育成からトップまでのつながる環境を築くという意味で非常に重要です。
春休みのこの時期に新しいチームのスタートを切る場となることは、リーグとしても大切にしています。勝敗だけでなく、他クラブの仲間をつくることや、昨年の自分と比較して成長を実感するきっかけにもなっています。指導者や協会が協力してこの場をつくり、子どもたちの成長を最大限に生かせる大会にしていきたいです。

◇人間教育と「食育」の重要性
――中学生年代の競技人口減少という課題に対し、エリートだけでなく全ての選手が長く続けられる環境づくりとして、今後どのような方策をお考えでしょうか。
永島 現在、部活動の地域移行など大きな変化の時期にあります。大切なのは、指導者が技術だけを教えるのではなく、人としての生き方や考え方に寄り添うことです。指導者はカウンセリングのスキルも身につけ、思春期の子供たちが抱える問題に向き合わなければなりません。一つ具体的な事例があります。能登半島地震の際、石川県サッカー協会は徹底して住民に寄り添い、ニーズを聞き取って支援を行いました。その結果、石川県だけが小中学生のサッカー登録者数が大幅に増えたのです。これは保護者が「サッカー界に子供を預ける安心感」を抱いた結果だと思います。ただサッカーを教えるだけでなく、日常から寄り添い、安心感を与えることがサッカー界の使命だと考えています。
海堀 なでしこリーグはアマチュアリーグの最高峰として、サッカーとキャリアを両立できる場所だと思っています。子どもたちにも、サッカーを続けるうえで、プロ選手だけでなく、いろいろなキャリアを持つサッカー選手がいることを伝えられたらいいなと思っています。仕事とサッカーを両立するその姿が、小さな子どもたちの夢にもつながると嬉しいですね。例えば、保育士を目指す子どもがいたときに、保育士を諦めなくても、保育士をしながらサッカーを続けられるんだよと伝えられたらと思います。どちらかを選ぶのではなく、それぞれの環境の中で自分らしく輝けることが大切だと感じています。クラブや選手は、子どもたちや地域にとっての身近な憧れとなる存在になっているのではないかと思います。
また、プレナスさんと『食育』にも取り組んでいて、憧れの選手を通して食事の大切さを知ることで、サッカー以外の面でも自分を整える力を育てていける特別な時間になっていると思っています。

◇選手・指導者へのメッセージと今後の展望
――U-15年代の選手や指導者へのメッセージ、そして大会の今後の展望をお願いします。
永島 夢や目標が大きいほど失敗の数は多くなりますが、それは本物になるための経験です。SNSでの誹謗中傷などに負けず、チャレンジしたことを褒め合える世の中を日本からつくっていきたい。指導者の皆さんは、指示を出すだけでなく、コーチングやカウンセリングを通じて子供たちの個性を伸ばし、寄り添う姿勢を大切にしていただきたいです。
海堀 サッカーはミスのスポーツだと思っています。ついつい完璧を求めてしまいがちですが、ミスを恐れずチャレンジして、選手を褒めるように自分自身も褒めてあげてほしいと思います。選手と一緒に成長し、学び続ける姿を選手にも見せてもらえるといいですよね。たくさんの人たちの協力があってこそのフェスティバルですが、J-GREEN堺という素晴らしい施設でこれからも発展させいきたいです。ここにいる選手たちが、地域の人や未来の子どもたちの憧れになるように、そして多くの人に『女子サッカーに出会えて幸せだな』と思ってもらえるよう、みんなさんと協力して歩んでいきたいと思います。
■関連情報
・U-15プレナスなでしこアカデミーフェスティバル2026 開催概要
・【開催報告】U-15プレナスなでしこアカデミーフェスティバル2026
一般社団法人日本女子サッカーリーグ 



