ニュース

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る

2026年09月09日

なでしこリーグの誕生日~歴史と未来をつなぐスペシャルインタビュー~

20260909_横山_HP.png

9月9日で38年目を迎えたなでしこリーグ。今年の誕生日企画は、静岡SSUボニータの横山久美選手になでしこリーグへの想いを語ってもらった。

第15節のASハリマアルビオン戦で今シーズン通算12ゴール目を挙げ、日本女子サッカーリーグ通算183ゴールを記録。大野忍が保持していた182ゴールを越え、歴代最多得点記録を更新した。

なでしこジャパンとしてプレーしていたとき、その数々のゴールすべてに特長があった。「自分のタイミングを作らないのが自分の特長だ」という当時の言葉がよみがえる。

多くの選手が、自分のシュートを打ちやすいタイミングに持ち込もうとするのに対して、横山はその逆。自分のタイミングを作るのではなく、目の前の相手との対峙の中で生まれる一瞬を狙う。そのために磨いてきたのが、相手との駆け引きだった。

20260909_横山_1.png

「確実に体力は落ちる歳ではありますから......(苦笑)。全体的に見たらピッチは広いけど、実際は目の前の相手との駆け引きが勝負。そこでコースも開けるし、受けたいタイミングで受けられる。5人も6人も来られたら無理だけど、1人、2人だったらこの駆け引きの質で決まる。もちろんパスも好きですよ。走らなくていいから(笑)」

あえて自分の型を作らず、相手の一瞬の隙をつくスタイルは今も健在。だからこその183ゴールなのだろう。

そんな横山の最初のなでしこリーグは、高校卒業後の2012年、湯郷ベルだった。

前年、ワールドカップドイツ大会を制した宮間あや、福元美穂がチームの中心を担い、2012年もロンドンオリンピックで日本女子サッカー史上初の銀メダルを獲得。なでしこジャパンへの熱狂が最高潮に達していた時代だ。

「澤(穂希)さんたちがいたINAC(神戸レオネッサ)との試合は観客が1万人を超えたときもありました。そういうところに、何もわからない自分が入ったので......苦労はしましたね(苦笑)。一番苦しかった時期だったと言えるかもしれません」

U-17女子ワールドカップ準優勝メンバーとしてシルバーボールとブロンズシューズを獲得し、海外でのプレーも視野に入っていた。一方で、成長期と重なり、フィジカル面でも苦しんだ。

「調子に乗ってた世代でしたし(笑)、さらに成長期ということもあってめっちゃ太ってたからいろいろ苦しかったですよ。でもこの時期がなければ、今の自分はないと思うくらいの経験をしたと思っています」

20260909_横山_2.png

その横山を大きく揺さぶり、成長させた存在が宮間あやだった。

「あまり言わないですけど尊敬する選手は今までもこれからも"宮間あや"です。確かに厳しかった!今でも一番怖い人であり、自分がどんなに成長したとしても超えることはないし、自分のなかであやさんが怖くなくなることもない(笑)。でもそれが全然嫌じゃないという......手取り足取り教えてもらった記憶は全くないですけど、すべてが学びで、お手本でした」

当時、チーム内に同世代がいなかった横山にとって、宮間から直接受け取ったものは大きかった。

「多分あやさんが一番厳しい時代ですよね。チーム内に同世代がいなかったんです。だから同世代で直々に教わったのは自分しかいない。そこは誇りです。特に今ならあやさんに言われたことの意味がほんっとに!理解できる。なんなら今、教わりたいくらい。そしたらもっといろいろ吸収できるし、今の自分で一緒にプレーしたいです」

20260909_横山_3.png

大きな経験を携えて、次なる戦いの場所はAC長野パルセイロ・レディースだった。若干20歳。それでも横山に託されたのは、エースであり、大黒柱という責任だった。

「まだ若い上に、"監督が連れてきた選手"ということで人間関係でも難しいところはありました。常に結果を求められたし、周りにも『文句があるなら結果を出して』と明言してましたね。そういう自分に課すプレッシャーは平気なんですよ」

このとき、横山をAC長野に引っ張ってきたのが、現在静岡の監督を務める本田美登里氏だった。U-20女子代表でコーチと選手という間柄で出会った2人だが、湯郷ベルへ引き合わせたのも本田監督(当時はすでに退任)であり、AC長野では初めてガッツリと組んだ形になる。

本田監督のたっての希望でコンディショニングを任されたのが、樋口創太郎コーチだった。当時の横山にとって大きな課題だった体力面を向上させるため、トレーニングに取り組み、練習の何時間も前にピッチへ入って黙々と走り込む横山の姿は当然の風景としてそこにあった。

「樋口さんはずっと一緒に走ってくれてました。自分より全然走れるんですよ、あの人(笑)。チーム自体の前十字関連のケガは本当に減ったし、体力面で樋口さんに、攻撃面で本田さんに成長させてもらった。自分が一番成長したと実感できる日々でした」

もともと体力面が大きな課題だった横山が、走る力を身につけた。その努力が、AC長野で開花させた攻撃力を支え、なでしこジャパン、そして世界へとつながっていった。

「攻撃面では本田さんに長野で成長させてもらった。常に自分で行け!と言われ続けてましたし、23歳でドイツ1.FFCフランクフルトへ期限付き移籍をしたのも、本田さんの影響が大きかった。自分を最大限に活かしてくれるのは本田さんだから......こういうのを恩師っていうんでしょうね、今は親子って言われますけど(笑)」

その後、舞台はアメリカへ。ワシントン・スピリット、NJ/NY ゴッサムFCでプレーした。

「自分らしく生きられるって感じる時間でした」

20260909_横山_4.png

世界有数の女子サッカーリーグでプレーし、人間性の面でも大きな影響を受けた横山は、2021年にトランスジェンダーであることを公表。その後、NWSLから古巣の湯郷ベルへ電撃復帰を果たした。2部に低迷していたチームを1部へ引き上げるという使命を、自ら担うためだった。

世界を知った上で、再び選んだ場所がなでしこリーグだった。

「NWSLからなでしこリーグ2部へ行く訳ですから、そりゃギャップはありましたよ。今はWEリーグもありますから、難しいですけど......なでしこリーグっていろんな意味で"原点"だと思うんです。だって38年って日本女子サッカーの歴史でしょ。自分にとって重要なのは場所じゃない、誰とサッカーするかが大事。どんなにキツくても結果が伴って初めて楽しさを感じるんです。すべて自分次第。自分にとってなでしこリーグは自分を作る場所、です。そして自分らしく生きられる場所であり、自分を作ってきた場所でもあります」

183ゴールという数字も、そんな時間の積み重ねの先にある。

そして今、横山が牽引する静岡は、若い選手たちを中心に前期を首位で終えた。中断期間には3名の選手がWEリーグへ戦いの場を移したが、横山は変わらずチームを率いて後期の戦いに向かう。

「バラエティ豊かとは言えないけど、自分みたいなのが11人いても勝てない。たくさん走れる人がいて、むしろそれしか出来ない人もいて、気持ちを出せる人、レフティな人......共通してるのはみんな素直。もっと上手くなりたい、絶対勝ちたいって思ってる。そのための方向性は絶対に一緒じゃないと勝てないです。自分のためだけにやってることってチームにはあまり還元されないけど、チームのためにやってることって自分自身に還元されるって思うんです。このチームはそれが出来る」

20260909_横山_5.png

宮間から多くを受け取った横山は、今度は自分が何かを次へ渡す側になろうとしている。

その一歩が、指導者への道だ。

「実は......B級ライセンス取ったんです(笑)。本田監督に言われて、ですけど。指導者の道を考えたことはなかった。でも見渡しても本田さんのサッカーを受け継ぐ人っていないじゃないですか。ある日『同じサッカーを出来るのはお前しかいない』って言われて......そりゃ響きますよね」

「もうなでしこリーグの指導はできますから(笑)。いずれ監督っていうのもあるかも(笑)」

38年の歴史を、横山もまた先人から受け取ってきた。そして今度は、自分が何かを次へ渡す側になろうとしている。

そして今、183ゴールを積み上げた横山には、現役としてのその先の目標もある。

最後にいたずら顔で横山は言う。

「目標ゴール?もちろんありますよ!......言わないけど」

そう笑ったあと、こっそりと数字を教えてくれた。

納得のゴール数。

それはもう少し時がたったあと、有言実行の横山の嗅覚によって、ファン・サポーターの前で証明されるはずだ。


文・撮影=早草紀子


◆横山 久美(YOKOYAMA Kumi)プロフィール
所属チーム:静岡SSUボニータ
生年月日: 1993年8月13日
ポジション: FW

【経歴】
岡山湯郷Belle → AC長野パルセイロ・レディース
→ FFCフランクフルト → ワシントン・スピリット → NY ゴッサムFC
→ 岡山湯郷Belle → 2025年より静岡SSUボニータ

【主な競技歴・記録】
◆U-17日本女子代表 FIFA U-17女子ワールドカップ トリニダード・トバゴ 2010 準優勝
◆U-20日本女子代表 FIFA U-20女子ワールドカップ ジャパン 2012 3位
◆日本女子代表 FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019 ベスト16
◆2014年プレナスチャレンジリーグ得点王
◆2015年・2024年プレナスなでしこリーグ2部最優秀選手賞・得点王受賞
◆2016年プレナスなでしこリーグベストイレブン受賞
◆2025年プレナスなでしこリーグ1部最優秀選手賞・得点王・ベストイレブン受賞

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る