連載コラム

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2021年12月29日

なでしこリーグの歴史を知ろう 第22回「新しい時代へ」(最終回)

日本で女性がサッカーをプレーすることが珍しかった時代から、女子サッカーリーグ開幕、女子ワールドカップ優勝、女子プロサッカーリーグ創設、また、女子サッカーを取り巻く環境、そして社会情勢は大きく変化してきました。
本連載コラムにて、激動の日本女子サッカーの歴史を振り返えってきましたが、今回が全22回の連載の最終回です。

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2021プレナスなでしこリーグ1部 第1節 愛媛FCレディース対アンジュヴィオレ広島愛媛県総合運動公園球技場(2021/3/27)

2021年3月27日土曜日、愛媛県松山市南部の小高い丘の上に立つ県総合運動公園球技場は暖かな春の日差しに包まれ、緑のピッチは美しい桜の花に彩られていました。「2021プレナスなでしこリーグ1部」の第1節、翌28日に行われる他5試合に先駆けて行われたのが、「愛媛FCレディース対アンジュヴィオレ広島」でした。
 前年のなでしこリーグから、この年の秋にスタートする新しいプロリーグ「WEリーグ」に参加する10クラブが抜け、新たに1部12クラブ、2部8クラブ、計20クラブでなでしこリーグの新しい歴史が始まるのです。
 ホーム愛媛のキャプテンMF松本苑佳がセンターサークルの中央に立ち、午後1時、松尾久美子主審の笛でキックオフ。勢いよく攻め込んだ愛媛でしたが、前半4分、アンジュヴィオレはFW松山夢のワンタッチパスでMF神田若帆が抜け出し、右足シュート。見事ゴール右に決まり、前年の「チャレンジリーグWEST」から「飛び級」で1部に上がったアンジュヴィオレが先制。これが「新なでしこリーグ」の第1ゴールとなりました。
 しかし試合はホームの愛媛が3-1で逆転勝ち。落ち着いて攻め返し、失点からわずか8分後にMF鈴木紗理が同点とし、後半にはFW山田仁衣奈、そしてキャプテンの松本がたたみかけて鮮やかな逆転勝利を収めました。
 WEリーグができることで、このシーズンオフにはたくさんの選手の動きがありました。しかし現在の日本の女子サッカーは非常に層が厚くなり、なでしこリーグのチームは新しい仲間を迎え、新しい時代に向かって歩み始めていました。そしてこの試合のハイレベルな内容は、なでしこリーグが日本の女子サッカーで今後も重要な地位を占める存在になることを証明したのです。
 1年遅れの東京オリンピックをはさんで行われた「新時代」のリーグは10月まで続けられ、1部では伊賀FCくノ一三重が圧倒的な強さを見せて優勝を飾りました。このクラブは創部45年、現存する日本の女子サッカークラブではトップクラスに長い歴史を誇るクラブです。1989年から2020年まで全32シーズンの「日本女子サッカーリーグ~L・リーグ~なでしこリーグ」に参加し続け、L・リーグ時代の1995年、1999年に「プリマハムFCくノ一」として優勝して以来、22年ぶり3回目の優勝でした。
 なでしこジャパンに選ばれたこともあるMF杉田亜未が攻撃を牽引、大型FWの西川明花が19得点を挙げて優勝に貢献しました。2位は前年2部で優勝したスフィーダ世田谷FC。FW大竹麻友が14ゴールを挙げてチームを牽引、尻上がりに調子を上げて2位につけました。
 2部優勝は「JFAアカデミー福島」。U-19日本女子代表候補のMF松窪真心が13得点を挙げて得点王となり、MVPも獲得しました。ただJFAアカデミーは1部昇格の要件を満たしていないため、2位の「バニーズ群馬FCホワイトスター」が1部12位の「大和シルフィード」と入替戦を行い、2戦合計2-1で勝って1部昇格を勝ち取りました。
 2022年のなでしこリーグは、1部12クラブ、2部10クラブで行う予定で、2部は2クラブ増えることになります。地域リーグから昇格を目指す7チームがまず戦って入替戦に出場する3クラブを決め、そこに2部8位の「岡山湯郷Belle」を加えた4チームの総当たりで3チームを決するという方法がとられました。その結果、岡山湯郷は残留し、新しくディアヴォロッソ広島(広島県)とヴィアティン三重レディース(三重県)の2クラブが2部に加わることになりました。
 ディアヴォロッソは広島県安芸郡熊野町に2019年に誕生したばかりのクラブです。2面の専用グラウンドをもち、急成長でなでしこリーグ入りを果たしました。そしてヴィアティンは三重県の桑名市でJリーグ加盟を目指して活動する総合スポーツクラブ「ヴィアティン三重」の女子部門。このクラブは男女のバレーボール、バスケットボール、ビーチサッカー、陸上競技などの部門をもち、サッカーのトップチームは現在JFLで活躍しています。
 今後、なでしこリーグからWEリーグへと上がっていくクラブが次々と生まれると予想されています。しかしなでしこリーグは1989年からの30年間以上の歴史をもち、いまも日本の女子サッカーのトップクラスのプレーヤーたちが切磋琢磨(せっさたくま)する舞台です。その歴史への誇りを胸に、「なでしこらしさ」あふれる試合を展開し、それぞれの地域のファンに、そして日本中の人びとに、笑顔のメッセージを届け続けることでしょう。(了)

文=大住良之(サッカージャーナリスト)
写真=Jリーグ

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