スイセンの花が紡いだ朝日インテック・ラブリッジ名古屋と瀬戸市の絆。初優勝を支えた地域活動
【初優勝の舞台裏にある地域活動】
今季、朝日インテック・ラブリッジ名古屋が悲願のなでしこリーグ1部初優勝を果たした。最多得点・最少失点という盤石のバランスを示し、主力退団という逆境を乗り越えてつかんだタイトルだった。一方でクラブは、競技面とは別に、瀬戸市での環境推進活動を3年間継続してきた。それが、秋に行うスイセンの球根植えである。
この活動は、クラブが瀬戸市へ拠点を移した時期に始まった。クラブ広報の南部えみ梨氏は、当初の経緯をこう語る。
「朝日インテックさんの地域貢献活動の一環として、私たちが事業に参加させていただいている形です。瀬戸市に専用練習グラウンドの創設が決まり、拠点を移行することが決まった際、"地域の皆さんとの交流を深めたい"という意向と、クラブを応援したいという朝日インテックさんの思いが一致し、発起人の方にもご協力いただき活動がスタートしました」
継続的な活動を通じて地域との関係を日常的なものへと広げ、選手やスタッフは「瀬戸市とともに歩むクラブ」という自負を育んできた。
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【活動の源流と瀬戸市との絆】
名古屋が続けてきた球根の植樹活動は、朝日インテックの環境推進活動を土台に生まれた取り組みだ。シーズンの勝利数に合わせて寄付されたスイセンの球根を、選手と市民が一緒に植える形式が定着し、瀬戸市における年間活動の柱になっている。

活動の発端は、朝日インテック側の提案だった。同社広報チームの梅村佳範氏は、当時をこう振り返る。
「当社で環境推進活動を進めていこうという話があり、地域に貢献できる形を考えていました。それまでにもラブリッジさんと連携していたこともあり、地元のためになる活動を模索する中で、最初に思い浮かんだのが植樹でした。ただ、場所や管理の問題がありますので、まずは瀬戸市役所に相談しました」
瀬戸市はその相談を受け、地域で花の植栽活動を続けてきた「長根花友の会」の佐藤幸男さんに橋渡しした。
「瀬戸市には平成4年から"街を花で飾ろう"という動きがあり、『春と緑の町作り協議会』
という組織を立ち上げて取り組んできました。令和4年には地元のメンバーで1500球のスイセンを植え、その後に朝日インテックさんとラブリッジさんの話を伺って連携が生まれました」(佐藤さん)
そう話す佐藤さんが発起人となり、以降、マリーゴールドやスイセンを季節に応じて植え続けてきた。

球根の数をシーズンの勝利数と連動させている点も特徴だ。朝日インテックの加藤七海氏は、「勝利数に応じて球根も増えていくという形が、活動の継続性にもつながっている」と話す。
クラブ側もこの仕組みを前向きに受け止めている。南部氏によれば、「来年はもっと植えられるように頑張ろう」という思いが選手の励みになっている。地域活動が、翌年に臨むモチベーションへと結びついた。
専用練習場が瀬戸市に整備されたことで地域との距離は一気に縮まり、春の清掃、秋の植栽という年間の流れが定着した。地域市民と選手が顔を合わせる機会が増え、初年度1200個、2年目1300個、3年目1500個と、球根数の積み上げがクラブと活動の歩みを示している。
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【球根植えの現場で育まれる交流】
秋晴れの10月末、瀬戸川の河川敷にはスイセンの球根が入ったケースが整然と並び、年配の方を中心に多くの市民が集まった。活動開始前から穏やかな空気が漂い、選手と市民が肩を並べて作業に取りかかる。

選手たちと市民との距離感にも、年を追うごとに変化が生まれている。
「1年目は瀬戸市とのご縁がないところから始まり、お互いに硬さがありました。今年は3年目で、"また会えたね"という雰囲気があり、来年を楽しみにしてくださる市民の方も多くいるようです」(南部氏)
今回の球根植えは優勝直後の実施となり、地域の人々との交流には例年以上の"熱"が生まれた。渕上野乃佳も、それを実感した一人だ。
「瀬戸市の方々と一緒に作業し、日頃の感謝を伝える貴重な機会でした。お祝いの言葉もたくさんいただき、あらためて"地域の方々に支えていただいて優勝できた"と実感しました。おじいちゃん、おばあちゃんたちから "また来年もあなたたちに会うために頑張るね"と言っていただきました。その方たちにとって、私たちの試合を見ることや交流することが楽しみになっていると感じ、嬉しかったです」

作業の合間には、「今年はたくさん勝ったね」「また試合を見に行くよ」といった声が飛び交い、自然と笑顔が広がる。地道な作業ながら、選手と市民が同じ場所で時間を共有することがクラブへの親しみを生み、その激励がチームの一体感を高めている。
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【活動が育てる"地域の顔"としての自覚】
スタッフ側にも活動の継続がもたらす手応えがある。11月末には瀬戸市主催の優勝祝賀パレードには、多くの市民が沿道に集まった。南部氏はこう振り返る。
「人がどれだけ来てくださるか不安でしたが、建物に入りきらず外に列ができるほどの多くの方に集まっていただき、感動しました。"会場には行けないけれど応援しているよ"と声をかけてくださる年配の方もいて、球根植えなどを通じた積み重ねが関係づくりにつながっていると感じます」
シーズン後のタイトな日程の中で調整に苦労はあるが、市長や企業関係者、地域団体が毎回参加することも励みになっている。当初は慣れない姿勢で腰痛を心配した選手たちも、2年目以降はトレーナーのアドバイスを受け、地元の指導を受けながら作業は年々スムーズになっている。

企業側にも変化が見えている。朝日インテックの梅村氏は、クラブの認知が確実に広がっている効果に言及した。
「地域活動に選手が顔を出すことで地元の新聞やニュースでも取り上げていただき、活動の認知が広がりました。優勝パレードでも多くの方が集まり、地域とクラブのつながりが形になっていると感じました」
チーム名に加え、練習場である「朝日インテック WOVEN FIELD(ウーブンフィールド)」のネーミングライツパートナーとしても、SNSなどで企業名とクラブ名が並んで発信されることによる大きなメリットを実感しているという。
その言葉を裏付けるように、発起人の佐藤さんも選手が参加する価値を強調した。
「私は長年ユリの植栽を続けてきましたが、"ラブリッジの選手が来る"と聞くと、普段より多くの方が協力してくださいます。テレビや新聞にも取り上げられ、活動に興味を持ってもらいやすくなりました。今後は機会を増やして、地元の方がもっとラブリッジに関心を持ち、皆で応援する流れを作りたいです」
瀬戸市役所の古瀬佳都美氏は行政の視点から、企業とクラブの連携が地域活性化に寄与していると語る。
「10月のイベント後に実施したアンケートでは、"選手と一緒に作業できて楽しかった""花が咲くのが楽しみになった"という声が多く寄せられました。地域との交流や観光促進といった地域活性化につながる点は大きなメリットです。リソースの確保や、行政と民間企業の間で目標やアプローチが異なる場合には調整が必要ですが、新しい施策で地域を盛り上げる可能性を持った取り組みだと感じています」
こうした積み重ねにより、活動は単なる景観美化にとどまらず、クラブが"地域に根づいた存在"として認識される土台になっている。
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【春の風景に重なる未来】
春になると、瀬戸川沿いの堤防では黄色いスイセンと淡いピンク色の桜が並んで咲く。南部氏は「桜が満開になるとスイセンの黄色とのコントラストが美しく、憩いの場として楽しんでもらえたら」と来春の風景に想いを寄せる。
佐藤さんはこの植樹活動を継続し、機会を増やすことで地域とクラブの連携をさらに深めたいと考えている。瀬戸市の古瀬氏も同様に、「子どもたちがスポーツに親しむ機会を増やし、地域と連携して健全で活力あるコミュニティを形成したい」と話す。地元企業と手を携えながらスポーツを通じた地域づくりを進め、"誰もが誇りに思える瀬戸市"を目指す考えを示した。
朝日インテック側の加藤氏は「当初の想定以上に勝利が伸びて、植える場所が限られてきた」と嬉しい悩みを語りつつ、寄付を継続することでより多くの場所で花を楽しめる環境を作っていく考えを口にした。

クラブ、企業、市民、そして行政。四者に共通するのは、活動を通じてクラブと地域がともに成長していく未来への期待だ。その未来図は、春を迎えるたびに表情を豊かに変える堤防の風景と重なって見える。
文=松原渓(スポーツライター)
一般社団法人日本女子サッカーリーグ 




