医療・福祉・スポーツの協働で築く新しい地域モデル。日体大SMG横浜がつなぐ健康と笑顔の輪
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【地域の思いが結んだ協働の輪】
健康寿命が長く、健康づくりへの関心が高い横浜市青葉区で、日体大SMG横浜が地域の健康支援に取り組んでいる。
地域ケアプラザ、郵便局、新富士病院グループと連携して行う「高齢者向けセミナー」では、スポーツを通じて健康と交流を促す協働の輪が広がっている。
「この活動は、クラブが主導したものではなく、新富士病院グループと郵便局の連携から生まれたものなんです」
日体大SMG横浜の嘉山寧氏はそう語る。地域で支えてくれる企業や団体が互いの強みを生かして協働し、そこにクラブが両者を結びつける「橋渡し役」として加わった。地域と共に歩む姿勢が、この取り組みに表れている。
青葉台駅前郵便局では、村野浩一局長を中心に、2017年から同クラブの活動を応援してきた。手紙の書き方教室とサッカー教室を組み合わせた小学校での企画などを通じて、地域との接点を育んできた。その後、介護・医療施設を展開する新富士病院グループが2020年にスポンサーとして加わり、「地域の健康に貢献する」という共通の思いが結びついた。郵便局、病院、地域ケアプラザのネットワークを介して、「高齢者向けセミナー」が2024年からスタートした。
活動の舞台となる横浜市青葉区は、健康寿命が長い地域のひとつ。地域ぐるみの健康づくりが盛んで、嘉山氏は「このまちにクラブがあることで、健康で豊かな暮らしづくりに少しでも役立てたら」と話す。
地域の医療・福祉・行政が連携し、クラブもその一翼を担うことで、単なるイベントに留まらない"地域づくり"の試みが形になった。

「クラブの活動をきっかけに、試合を見に行こう、応援メッセージを送ろう、グッズを作ろうといった新しい行動が生まれています。そうした動きが生活に活力をもたらしているという声を参加者の方からいただくようになりました」(嘉山氏)
選手やスタッフが地域の現場に立ち、世代を超えて関わる中で、地域住民の心身の健康だけでなく、クラブへの理解や愛着も深まっていく。クラブが地域に根を張り、人々の生活の中に息づく存在になる。その基盤づくりこそが、この活動の目的である。
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【体操がつなぐ 選手と参加者の笑顔】
横浜市青葉区内の各地域ケアプラザを会場に行われる高齢者向けセミナーは、2022年からクラブのトップパートナーとなった新富士病院グループが管理栄養士や医師などの専門家を派遣。郵便局が進行を担い、地域ケアプラザが参加者の募集や当日の運営を支えている。日体大SMG横浜の選手たちは体操パートを担当し、地域の高齢者と直接ふれあう時間をつくっている。
椅子に座ったままでもできるストレッチや、手足を使った軽い運動を取り入れた内容で、会場には明るい声が響く。体操が終わるころには、会場全体に温かな一体感が生まれている。

体操の指導を担当した1年生の田村來愛は、動作を考えるうえで特に意識したことがある。
「足が不自由な方もいたので、座ったままできるストレッチや手だけでもできる動きを工夫しました。逆に手が不自由な方には足だけでもできるように、いろいろな箇所を動かすことを意識しました。皆さんがとても楽しそうに取り組んでくださって、すごくいい時間になりました」
見本役として前に立った1年生の杉本光羽は、動きの"伝え方"にこだわった。
「年齢層も幅広かったので、動きをできるだけ大きく見せて、高齢者の方の表情を見ながら理解しやすいように意識しました。わからないところを質問してくださる方もいて、笑顔で一緒に体を動かせたのが嬉しかったです。『またやってみたい』と言っていただけたことが印象に残っています」
青葉台駅前郵便局の村野浩一局長によると、セミナーはおよそ1時間半から2時間の構成だという。
「地域ケアプラザの職員の方から認知症予防などの話、郵便局からは"終活"についての説明、新富士病院グループさんからは夜間頻尿の対策や日常の健康管理のポイントなどをお話しいただきます。その合間に選手が体操を行います。その際に『日体大SMG横浜という女子サッカーチームが地域貢献活動を頑張っているんですよ』と紹介すると、皆さん驚かれるんです。選手たちの存在が、地域のつながりを生むきっかけになっています」
活動をきっかけに、実際に試合を観戦する高齢者も増えている。田村は「セミナーの翌週に入替戦があったのですが、『何時から?どこでやるの?』と声をかけてもらって嬉しかった」と話す。杉本も「その日に予定を入れて見に来てくださった方もいました」と続けた。
高齢者の笑顔、若い選手の学び、企業や団体の協働。異なる立場の人々が手を取り合うこの活動は、地域の健康づくりを支える新しい形を提示し、活動の輪がスタジアムの応援へとつながっている。

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【医療・福祉・地域が支え合う協働のかたち】
この活動は、地域ケアプラザ、郵便局、そしてクラブのトップパートナーである新富士病院グループという、三者の協働によって支えられている。医療・福祉・地域ネットワークがそれぞれの得意分野を生かし合い、健康づくりの輪を広げている。
地域ケアプラザは、営利を目的とせず、地域住民の生活支援や介護予防、健康づくりを推進し、民間との「公民連携」にも積極的に取り組んでいる。地域ケアプラザの糸川史生氏はその意義をこう語る。
「日体大SMG横浜の選手の皆さんを通じて、介護予防にもつながる体操を行っていただくことは、セミナー全体の良いアクセントになっています。高齢者のさまざまな問題を提起していくうえで、若い学生の皆さんに関わっていただくことは、地域社会の未来にとって有意義なことだと感じます」

一方、新富士病院グループでは専門スタッフが生活習慣や健康管理に関する講話を担当している。スポーツクラブとの協働について、同グループの広報を務める片岡雅憲氏は次のように話す。
「私たちは社会課題とされている高齢者の健康に積極的に関わることで、高齢者が安心して暮らせる街の実現に寄与したいと考えています。スポーツクラブと医療が地域社会でつながることで、応援による生きがいの創出や健康効果が期待できます。新富士病院グループが運営する社会福祉施設にも選手が継続的に訪問することで、利用者の方々が元気になり、応援を通じて地域全体が活気づくような環境をつくっていきたいです」
郵便局は、地域ネットワークの調整役として全体の流れを支える。「地域の資源がそれぞれの得意分野を発揮し、足りない部分を補い合うことで、地域に還元できる仕組みができている」と糸川氏。こうした"横のつながり"こそがこの活動の強みだ。
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【支え合いが育む 選手の成長と地域の未来】
活動を通じて地域の人々と直接ふれ合う中で、選手たちは"支えられる喜び"を実感している。田村は「応援してくれる人がいるからこそ、練習や試合でも結果にこだわりたいと思うようになりました。もっとたくさんの方にチームの存在を知ってもらいたいし、それが私たちが頑張れる理由にもなります」と意欲を示し、杉本も「高齢者の方たちとつながりを深めて、さらに地域に応援されるチームに成長したい」と続けた。
クラブの嘉山氏は、活動を通じた選手たちの内面の変化も感じている。地域の方々と接する中で、スポーツの価値を自らの体験を通じて理解し、応援される喜びを力に変えるようになった。多様な世代との交流を通じて、社会性や責任感も育まれているという。
「訪問した高齢者施設の方々が試合会場に来てくださった際、選手が再会に興奮しながら交流し、高齢者の皆様が笑顔になっている光景を見て、思わずウルウルしてしまいました」
活動に向けてメニューや挨拶を自分たちで考え、次に向けて改善する姿勢も見られるようになり、「準備や工夫を重ねること自体が選手の成長につながっている」と嘉山氏は目を細めた。
一方で、これまで5回の活動を継続して見守ってきた村野局長は、手応えと課題の両面を口にする。
「選手の皆さんは高齢者とのコミュニケーションがとても上手で、どの地域ケアプラザでも参加者の方がいい反応を示してくれます。今後は横浜市の高齢支援事業など、既存のネットワークと連携しながら活動を広げていきたいです。今の高齢者にはまだサッカーに馴染みのない方も多いですが、10年後にはサッカーを身近に感じる高齢者が増えると思います。その時にこそ、この活動の意義がさらに広がっていくはずです」

地域の健康づくりにおいて、スポーツクラブが果たす役割は広がりを見せている。日体大SMG横浜の「高齢者向けセミナー」は、スポーツを通じて世代をつなぎ、地域に笑顔と活力をもたらす取り組みとして定着しつつある。
選手が地域に学び、地域が選手を育てる――その循環の中で育まれる信頼と絆は、なでしこリーグの目指す「地域に愛されるクラブ」の姿を体現している。
文=松原渓(スポーツライター)
一般社団法人日本女子サッカーリーグ 




