連載コラム

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2025年12月02日

なでしこリーグがつなぐ地域の絆~愛されるシンボルを目指して~ヴィアティン三重レディース

地域とクラブが育てる"スポーツの輪" 東員町とヴィアティン三重レディースが進める共創の歩み
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【「とういんスポーツフェスタ」がつなぐ地域の輪】

三重県東員町で開かれる「とういんスポーツフェスタ」は、町内外から多くの方が参加し、誰もが気軽にスポーツに親しむことを目的としたイベントである。会場はヴィアティン三重レディースのホームスタジアムでもある東員町スポーツ公園陸上競技場(現LA・PITA東員スタジアム)。陸上、ダンス、グラウンドゴルフ、ペタンク、ストラックアウトなど、多種目が一堂に会し、参加者が楽しく身体を動かしスポーツに励む光景が広がる。

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クラブがこのイベントに参加するようになったのは3年前。東員町から声がかかり、サッカー教室を担当するようになった。クラブ運営担当の魚住剛氏は、参加の目的を「女の子がサッカーをできる環境が身近にあることを、町の人に知ってほしい」と話す。

フェスタ当日は、大人から子どもまで幅広い世代が集まり、各ブースを自由に回遊する。サッカー教室のブースに集まった子どもたちも、選手たちと一緒にボールを追いかけた。魚住氏が印象に残ったのは、陸上競技に参加した子どもたちが、キックターゲットを体験した場面だという。

「『ボールを蹴るのって面白い』という反応があって。子どもたちにとってサッカーに興味を持つきっかけになっていると感じました」

地域の側から見ても、クラブがフェスタに参加する影響は大きい。東員町スポーツ協会の石川清氏は「イベントに厚みが出た」と話す。

「青空健康体操や太極拳など、スポーツ協会だけでは種目が限られますが、サッカー教室が加わることでイベントの幅が広がります」

晴天時はスタジアム周辺が人で埋まるほどの人気イベントだが、11月1日に開催された今年のフェスタは、前日夜からの雨の影響で例年より来場者は少なかった。それでも会場には多くの笑顔が生まれ、選手と地域が寄り添う時間が流れていた。こうした積み重ねが、クラブと町の関係を確かなものにしている。

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【子どもたちと分かち合う"サッカーの楽しさ"】

サッカー教室の時間が始まると、芝生の上に活気が広がった。ドリブルリレーが始まると、子どもたちの表情が一気に弾ける。ヴィアティン三重レディースからは6名の選手が参加。ボールが足元から離れ、慌てて追いかける子がいれば、慎重にタッチを繰り返す子もいる。その横を選手が同じ目線で並走し、成功すると大きく手を広げてハイタッチを促す。

伊藤実咲は、この日の指導で「まず自分たちが楽しむ姿を見せること」を大切にしたという。子どもたちとの距離を縮めるため、できるだけ多く声をかけ、うまくいった瞬間を一緒に喜ぶ。また、子どもたちへの伝え方を工夫することが、自分自身の学びにもつながっていると感じている。

「コミュニケーションを取ると、純粋に喜んでくれるんです。終始楽しそうにしてくれていて、サッカーを楽しむ気持ちはやっぱり大事だなと改めて感じました。基礎の大切さを子どもたちに伝える中で、自分も改めて気づくことがありますし、教えることで自分のプレーの理解が深まる部分もあります」

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福山佳歩は、"とにかく褒めること"を意識して向き合ったという。参加人数が多くなかった分、一人ひとりと丁寧に接することができた。

「シュートが入ったら素直に喜ぶ姿が印象的でした。年齢を重ねると忘れがちな"楽しい"という気持ちを、逆に思い出させてもらえた気がします」

東員町教育委員会・社会教育課の山下哲郎氏も、子どもたちの反応に手応えを語る。

「サッカーという競技をまだ知らない子もいたと思いますが、ボールに触れるだけで笑顔が生まれる。こうした機会が、スポーツを始めるきっかけになっていると感じます。町にヴィアティン三重があるからこそ、トップチームの選手と触れ合える貴重な機会を通じて、サッカーに触れる子どもが増えてほしいと思っています」

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【地域とクラブの共創が生む相乗効果】

ヴィアティン三重の理念「スポーツで三重を元気に」は、東員町との継続的な協働を通じて、少しずつ地域の活動に根づいてきた。両者の関係が深まった背景には、クラブが東員町スポーツ公園陸上競技場をホームスタジアムとして活用し始めたことがある。試合だけでなく、町主催の行事や教育活動で顔を合わせる機会が増え、地域との接点が広がった。

山下氏は、連携が始まった経緯を次のように説明する。

「陸上競技場をヴィアティン三重さんがホームスタジアムとして使用するようになり、その流れで一緒にイベントを行うようになりました。町としても、こうした取り組みがスポーツ振興につながると捉えています」

町の行事にクラブが参加することは、単にサッカーを教える場が増えるだけでなく、学校とも家庭とも異なる学びの場が生まれている。石川氏も、クラブが地域全体にもたらす影響を実感している。

「ヴィアティンさんのような総合型スポーツクラブがあることで、サッカー以外の競技にも広がりが出ます。小学校や幼稚園でサッカー教室を開催していただくなど、地域貢献にもつながっています」

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さらに石川氏は、トップレベルの選手が地域行事に参加することの影響力についても強調した。

「なでしこリーグのトップチームであるレディースの選手が参加すると、集客にもつながります。今後も協力しながら地域を盛り上げていきたいですね」

こうして、クラブが町や学校、スポーツ協会と関わりながら、地域の中にスポーツの輪が広がりつつある。

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【持続可能な地域貢献への挑戦と課題】

イベント後には、選手の周りに子どもや保護者が集まり、小さな会話が生まれていた。選手やスタッフにとって、地域の人々の"顔"を見ながら、日頃の試合では得られない対話が生まれることは貴重だ。福山佳歩は、その意義を次のように語る。

「男子チームのほうが知られているので、こういう場で『女子の試合も見に来てね』と直接伝えられるのはありがたいです。保護者の方とも試合の情報を共有できました。まずは地元の方に応援されるチームになることが大事だと思うので、見に来てくださった時に勝つ試合をお見せできるよう、プレーでも頑張っていきます」

同じく伊藤も、地域イベントが「試合観戦につながる入口」になると感じている。

「スクールに来てくれる子どもたちが試合を見に来てくれたり、友達を連れてきてくれたりすると思うので、こうした活動を積み重ねて、チームや女子サッカーを知ってもらう機会につなげたいです」

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こうした活動の広がりに、行政側も期待を寄せる。東員町教育委員会の山下氏は「東員町全体でヴィアティン三重を応援していける風土になれば」と語る。

一方で、地域活動の拡大には課題もある。クラブ運営を担う魚住剛氏は、活動の価値と現場の制約のジレンマを明かした。

「女子サッカーを知ってほしいし、始めた子には続けてほしい。その近道は、選手と直接触れ合える場を増やすことだと思っています。ただ、選手はフルタイムで働き、週末は公式戦があるため活動回数を増やしにくいのが現状です。巡回指導や地域イベントにもっと参加できたらいいですし、選手がユニフォームを着て臨める場を増やしたいですね」

選手の手応え、行政の期待、そしてクラブの視点と課題──それらが重なり合い、地域での活動は新たな未来図を少しずつ描き始めている。
スポーツフェスタは一日限りのイベントだが、その積み重ねがクラブの存在意義を確かなものにし、 "町に根付く存在"へと育てていく。


文=松原渓(スポーツライター)

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