2021年に創立100周年を迎えた JFA (日本サッカー協会)は、次の100年に向けた「持続可能な開発目標(SDGs)」の取り組みやサッカーを通じた社会貢献活動を「アスパス!」と命名しました。「環境、人権、健康、教育、地域」の5つの重点領域で各種の施策を推進しています。
なでしこリーグは、「普及」「地域」「多様性」をキーワードに、女性が人生のさまざまなステージにおいてサッカーと共に活躍できるリーグを目指しています。この連載「なでしこリーグのSDGs もう一つのゴール」では、各クラブが展開する SDGs の取り組みをレポート。最前線で関わる選手、スタッフ、地域の皆さんの、さまざまな声を紹介していきます。その第一回で紹介するのはヴィアティン三重レディースの取り組みです。ヴィアティン三重レディースは、働く女性が共に成長するためのイベントの開催に協力し、ジェンダー平等と働きがいづくりを目指しています。
ヴィアティン三重は女子サッカーのみならず、地域の皆さんが各種のスポーツに親しみスポーツの価値に触れてもらうことができる、多種目、多世代、多志向の総合型スポーツクラブです。健康や生きがいを提供し、笑顔があふれ三世代が集う幸せな街を実現出来るようSDGsに賛同し取り組んでいます。クラブ全体では、主に健康づくりやスポーツ教室、教育支援を展開していますが、女子サッカーチームのヴィアティン三重レディースとしては、三重県女性起業家コミュニティ【wiz:】が開催する『wiz: 春のフェスタ』の開催に協力しています。今年の開催日は試合開催日の翌日となりましたが、多くの選手・スタッフが参加しました。これは、ヴィアティン三重レディースにとって大切な活動なのです。
『wiz: 春のフェスタ』は、この地域で起業した皆さんが、主にテストマーケティングをするためのイベントです。女性起業家がブースを出展し来場者に試作品を販売したり、アンケート調査を行ったりして、起業したビジネスの改善に活かしています。ヴィアティン三重レディースは、このコミュニティと協力して開催の事前告知活動を展開。また、開催日当日は会場内でキックターゲットのアトラクションを行いました。
『wiz: 春のフェスタ』に参加した川端蒼弓選手(21)、山崎愛海選手(9)、長谷川優選手(13)
三重県女性起業家コミュニティ【wiz:】の共同代表で起業家向けのシェア&レンタルオフィスを運営する一尾香(いちおかおり)さんは「地元で活躍する女子サッカーチームとコラボレーションすることで来場者層が広がった」と喜びます。ヴィアティン三重レディースを通じて開催を知った男性、お子さん連れの家族も多く来場します。
「ヴィアティン三重レディースと女性起業家には立場の違いはありますが、地域とつながり『共に成長する』という共通点があります。集客力というよりも、ジェンダーの壁をも越えるこの活動に特別な価値を加えてくれる意味が強いと思います」
三重県女性起業家コミュニティ【wiz:】でイベントの運営を担当する永井貴代さんは、ヴィアティン三重レディースの参加により「三重県内の起業家の横のつながりが広がった」と言います。同じくイベントの運営を担当する清水景子さんは「選手の皆さんが努力をされ頑張っているのが伝わりパワーをもらいました。地域が一つになって盛り上がるきっかけになると思います」と、いつもキラキラ輝く笑顔の選手たちに感謝しています。この地域では、子育てをしながら起業される方も多くいます。お子さんがキックターゲットに参加することを通じて女性起業家同士が共に盛り上がり、コミュニティの関係が密になります。一尾さんは「選手と参加者、女性起業家の距離感が『wiz: 春のフェスタ』のスタート前と事後とではかなり変わり、とても近くなっていました」と振り返ります。
『wiz: 春のフェスタ』参加者と
2019年に引退、その後に再び現役選手へと復帰し、今シーズンからヴィアティン三重レディースでプレーしている宮本裕加選手は社会人としての経験も豊富です。そのため、この取り組みに費やした時間を有意義に感じました。
「お子さんは、何回か蹴っているだけでも急速にキックが上達していきます。それを保護者が動画や写真で撮影して楽しんでくださったので、女性起業家をはじめとする皆さんのお役に立てたと感じます。出展されている女性起業家にもチームに分かれて参加していただきました。『絶対に決める』と意気込む人、1回で50点の的に蹴り込んだ人もいて会場はとても盛り上がりました。『久しぶりに運動できてよかった』という参加者の声もあり、もしかすると、ご自分の健康状態への気づきのきっかけを創ることができたかもしれません。こちらが怪我を心配するくらいやる気満々な人もいましたね」
女性起業家と選手の間の距離も近づきました。
「『同じ女性同士で一緒に頑張ろうね』『何か不安があったら相談しに来てね』と、女性起業家の皆さんが、たくさんの声をかけてくださいました」
そう振り返るのは、短期大学卒業2年目の川端蒼弓(かわばたそら)選手です。これからは、お互いのS N Sを活用し、一緒に活動への理解を広げていくことを考えています。新たな出会いが次のアクションを生み出し、地域のコミュニティを大きく膨らましていきます。
親子で参加できるキックターゲット
上智大学の三浦まり教授らがつくる「地域からジェンダー平等研究会」が公表した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」によると、三重県は、「政治分野」では、選挙区選出の国会議員における女性議員の比率が全国3位の高さですが、「経済分野」は、フルタイムの仕事に従事する男女間の賃金格差、共働き家庭の家事・育児等に使用する時間の男女格差等が全国平均よりも大きく全国46位となりました。
働きながらプレーする選手が大半のヴィアティン三重レディースは、地域コミュニティの一員として、ジェンダー平等と働きがいづくりを目指し、SDGs の活動をこれからも続けていきます。
Text by 石井和裕