連載コラム

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2021年07月21日

日本全国なでしこリーグの街を訪ねて 愛媛FCレディース編

愛媛県松山市は人口約51万人。四国地方最大の都市。なでしこリーグ1部、愛媛FCレディースのホームタウンです。自然に恵まれ、温和で人情味に富む人が多い文学の街といわれています。松山市が生んだ俳人・正岡子規が詠んだ「春や昔 十五万石の 城下かな」は、松山市に住む人なら知らない人はいないというくらいに有名な俳句です。さて、この城下で、愛媛FCレディースを愛してくださる人を訪ねてみましょう。

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(松山城から見た街並み 写真提供:松山市)

この連載では、なでしこリーグ1部で戦う全クラブのホームタウンを探訪します。各クラブを支えてくださる皆さんのお話をうかがい、地域で活躍する選手の姿を捉えます。アマチュアリーグであるなでしこリーグの存在意義、そして、選手が地域の皆様に応援していただける理由を感じられると思います。ぜひ、最後までご覧ください。

入浴パスポート?それとも顔パス?選手を癒す 久米之癒(くめのゆ) 三好賢一さん

最初に訪れたのは東道後温泉郷。ここに、選手を支える温かい場所があります。久米之癒は、のべ30万人(年間)以上が入浴するアットホームな温浴施設。独特のヌメりのある泉質が評判で、多くの方が美肌を目的に訪れます。久米之癒では、入浴パスポートを愛媛FCレディースの選手に発行。試合や練習の疲れを癒してきました(現在は新型コロナウイルス感染症対策のため、選手の入浴を停止しています)。

久米之癒の支配人・三好賢一さんが、選手からの評判を教えてくれました。「選手は冗談抜きで毎日のように来てくれます。お風呂の評判は顔を見ていれば分かるかなというくらい(笑)。みんなでわいわいしている。仲良く同じ浴槽でサッカー談義なのか恋バナなのか......楽しそうにしているというのはよく聞きます」

松山市には道後温泉をはじめ、たくさんの温泉・温浴施設があります。三好さんは、その中で、選手が久米之癒に足を運んでくれることが、とても嬉しいそうです。そして、選手たちの笑顔に癒やされるのだとか。「いつ見ても選手はニコニコしているので、毎試合、勝っているんじゃないかと思うんですけど(笑)」
選手は入浴する際に入浴パスポートを受付で提示します。毎日、来る選手は受付スタッフと、いつの間にか友達のように接するようになりました。「選手は、本当に毎日来られるので顔パスになってしまって、何のための入浴パスポートかな?という気はします(笑)。玄関を開けたら『はい、どうぞ!』という感じです」

これまで、なでしこジャパン(日本女子代表)に何人もの選手を送り込んできた愛媛FCレディース。今シーズンは2年目のなでしこリーグ1部です。「1部で長く活躍されることを願っていますね。あとは、やっぱり、なでしこジャパンに招集されると周りも『なでしこの選手が来ているよ』って言ってくれるので、そういった選手が1人でも2人でも出てくれると我々も嬉しい。お客さんも喜んでくれると思います」

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(久米之癒 支配人 三好賢一さん)

仕事もプレーもベストパフォーマンス!15名の選手が働く 株式会社ベネフィット・ワン

続いて訪問したのは、ユニフォームスポンサー、トレーニングウエアスポンサーの株式会社ベネフィット・ワン(以下、ベネフィット・ワン)松山オペレーションセンターです。500名以上がシフト制で勤務しています。ここで働く愛媛FCレディースの選手は15名。福利厚生サービスや健康診断等に関する書類のチェックやパソコン入力といったデスクワークを中心に業務を行っています。

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(15名の選手紹介パネルの前で 株式会社ベネフィット・ワン 左:運営企画グループ シニアマネージャー 吉野航太さん 右:健診処理グループ グループ長 野本奈美さん)

「昼間に仕事をして夜に練習。土日に試合をしてかなりハードなスケジュールだと思うんですよ。だから、ホームゲームに足を運んで応援してあげたいです。夕方に選手が練習に出かけるときは『行ってらっしゃい、頑張ってね』という声をかけています」と、健診処理グループ グループ長の野本奈美さん。選手の上司です。
元々サッカーに興味を持っていた人と、サッカーに興味がなかった人が一緒に応援に行って、グループの一体感を実感するのも、選手が身近にいる効果だそうです。そして「頑張っている人を応援する気持ちが芽生えますね」というお言葉も。

松山オペレーションセンターの内部は愛媛FCレディースのクラブカラーのオレンジで彩られています。特に目を引いたのは、最上階のキャンティーン(休憩室)入り口に設置された愛媛FCコーナーです。運営企画グループのシニアマネージャー 吉野航太さんは「館内に貼ってあると意識します。試合の結果が月曜日に更新されるので、親戚のおじさん、近所のおっちゃんのごとく見守っています」と語ります。

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株式会社ベネフィット・ワン松山オペレーションセンターの愛媛FCコーナー

愛媛FCレディースのアウェイゲームの会場にユニフォーム姿のサポーターが現れました。ベネフィット・ワン 常務執行役員の久世雅子さんと経営企画室の小寺暁子さんです。2人は東京勤務。久世さんは、松山オペレーションセンター長のときに、選手の採用を決断しました。2021年5月から東京勤務となり、今では、首都圏で開催されるアウェイゲームでの応援が日課となりつつあります。

「2018年に『選手を受け入れてもらえる職場はありますか?』と愛媛FCさんからお誘いを受けて3人の新卒選手を採用しました。サッカーに興味があったわけではなく『アスリートを受け入れたい』と思ったのがきっかけです。私は10年間バレーボールをやってきたこともあって『働きながらプレーするアマチュア選手を応援したい』とシンプルに思いました」と、当時を振り返る久世さん。選手の約半分がベネフィット・ワンで働いているので「今では、愛媛FCレディースが自分のクラブのような気がしている」のだそうです。

小寺さんは、自社が愛媛FCレディースのスポンサーになったことをきっかけに、試合会場にも足を運んで応援する生粋のサポーターになりました。大学でサッカー部のマネージャーをしていたので、サッカーの応援をするのは自然なことでした。
ベネフィット・ワンには、一緒に愛媛FCレディースを盛り上げる、社内のコミュニケーションツールがあります。選手とのやり取りもあり「直接の接点があると、自分の想いを応援に打ち込んでしまいますね。『彼女たちに会いに行きたい!』という気持ちになります」と、笑顔で話してくれました。松山オペレーションセンターと東京勤務の小寺さんが愛媛FCレディースを通じて繋がっているかのようです。

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株式会社ベネフィット・ワン(左:常務執行役員 久世雅子さん、右:経営企画室 小寺暁子さん)

松山オペレーションセンターでは、今年、新たに「愛媛FC委員会」を立ち上げてバックアップしています。従業員がアイデアを持ち寄って、去年よりも更に手厚いバックアップ体制を整えようとしています。

1月に開催された『愛媛FCレディース壮行会&慰労会』では「弊社を巣立つメンバーも新天地で輝いてほしい」と、退職する選手に、吉野さん謹製感謝状がプレゼントされました。「年末ぐらいに自分で企画を持ち込みました」と語る吉野さんに、野本さんは「最初、何か作りたいと言われてどんなものが出来上がるのかと思っていたけど、ここまで凄いとは思わなかった。彼女たち、とても喜んでいました」

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『愛媛FCレディース壮行会&慰労会』での退職者へのセレモニー 提供:ベネフィット・ワン

ベネフィット・ワンによると、松山オペレーションセンターには「『おもてなしの心』を大切にする地元・愛媛県出身者」が多く勤務しているのだそうです。選手の皆さんは、松山らしい温かな気持ちに溢れた職場で、お客様に対応しています。

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(キャンティーン(休憩室)のテラスで寛ぐ松本苑佳選手、上村彩華選手、阪本未周選手(左から)※撮影時にマスクを取りました。)

選手が発案!スーパーマーケットでコラボ弁当発売 株式会社セブンスター 経営企画部 部長 杉田幸司さん、セブンスター南江戸店 店長 宇髙誠治さん

取材に訪れた、その日は『愛媛FCレディース×セブンスター コラボ弁当』の発売日でした。夕方の店内は、多くの買い物客で賑わっていました。『勝利へのエナジー弁当』『スマイルランチBOX』の2種類の弁当がひっきりなしに売れていきます。

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(セブンスター 南江戸店 筬島選手勤務の様子)

「選手たちも職場に慣れてきたので『何か自分たちも関われることを』と相談を受けていました。『じゃあ、お弁当を一緒に作ってみようか』ということになりました。取引先の勉強会にも選手たちは参加しました。『自分たちが考案したお弁当を食べて、愛媛FCレディースの試合を観戦し応援してほしい』という選手たちの考えもあります」と、お話してくださったのは、ユニフォームスポンサーの株式会社セブンスター 経営企画部 部長 杉田幸司さんです。品出し等のバックヤードの仕事は単純作業が多いので、勤続年数の長い選手に変化を提供してあげたいという配慮もあったとのこと。そして、逆に「セブンスターに恩返ししたい」という、選手からの思いもありました。

南江戸店 店長の宇髙誠治さんは、大学までプレーしていたサッカー経験者。この店で働く筬島彩佳選手にとっては、心強い上司です。
「お客様に熱烈ファンのおばあちゃんがいらっしゃいまして、試合の後は、必ずお店に葉書が届きます。いつも『頑張ってください』と書かれています。受け取ると『こっちも、頑張ろう』って思いますね」
南江戸店の愛媛FCレディース応援ブースは、宇髙さんのこだわりが詰まった作品です。

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セブンスター南江戸店 愛媛FCレディース応援ブースにて (左:株式会社セブンスター 経営企画部 部長 杉田幸司さん 右:セブンスター南江戸店 店長 宇髙誠治さん)

職場には、いつでも選手を見守ってくれる人がいる。働く選手は、他の従業員とはもちろん、取引先、お客様とも、いつの間にかとても身近な関係になっています。今回、訪れた3つの企業では、いずれも、皆さん、楽しそうに選手のことを語ってくださいました。

ふと、バックヤードの部屋を覗くと、筬島選手が大きな声で宇髙さんを呼び止めていました。「店長!さっき、お弁当の向き、間違えちゃったから、もう一回、動画撮影してください!!」「えーもう一回!?」「お願いします!」

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(『愛媛FCレディース×セブンスター コラボ弁当』を手に村上朱音選手、筬島彩佳選手、松永早姫選手(左から)※撮影時にマスクを取りました。)

支えてくれる人がいて選手は輝く。十五万石の城下には、今も昔も変わらぬ温もりがありました。
今回は愛媛FCレディースのホームタウン・松山市の皆さんを訪ねました。

Text by 石井和裕

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