吉備国際大学Charme岡山高梁でプレーする山下栞選手は鹿児島県出身。ホームタウンの高梁市について「散歩をしていると、おじいちゃん、おばあちゃんが話しかけてくれる、とても心温かな地域」と話します。
高梁市は岡山県の中西部を流れる高梁川、成羽川の流域に位置します。過疎が進行する山間地域ですが、駅に隣接した高梁市図書館にはスターバックスコーヒーがあり、吉備国際大学の学生たちのくつろぎの場となっています。吉備国際大学Charme岡山高梁は、吉備国際大学の学生が多く所属しているクラブチームです。
この秋の高梁市は、江戸時代から続く成羽愛宕大花火の開催で久しぶりに賑わいました。
「300年以上も続いていると聞いたとき、まず花火が300年も前からあると知らなかったので驚きました。私は花火の下絵を描く作業を行いました。9メートル四方くらいの型枠を基準に線を引いていきます。絵が得意ではない私でも上手にできました。この花火は地域で代々受け継がれ、ずっと試行錯誤を繰り返してきたので、誰でも簡単にできる方法になったのだと思いました」
そのように話した八木遥選手は神戸市出身。吉備国際大学Charme岡山高梁でプレーし高梁市内で生活しています。
選手が作業に参加した成羽愛宕大花火は、宝永元年(1704年)に、成羽藩後期山崎二代藩主山崎義方が、愛宕神社を領地に勧請し花火を奉納したのが始まりといわれています。仕掛け花火(昔はカラクリと呼んでいた)の絵を描く技術、火薬を扱う技術を住民が伝承してきました。現在は、打上げ花火や火薬の扱いなど法律に触れる箇所だけは花火師が作業しますが、それ以外は昔から地域のボランティアが運営しています。そのため、この地域で暮らす人々は成羽愛宕大花火を「我らが誇り」と言います。
文化遺産や自然遺産を保護し、保っていくための努力を強化することもSDGsの目標の一つです。吉備国際大学Charme岡山高梁は成羽愛宕大花火への参加をSDGsの取り組みと捉えています。
成羽愛宕大花火の会場準備をする吉備国際大学Charme岡山高梁の選手たち 写真提供:備北商工会
横山萌選手は大分県出身。入学を機に転居してきました。古い街並みの残るこの地域での生活を気に入っています。
「花火を打ち上げるための荷物を運びながら、吉備国際大学Charme岡山高梁の話をして、地域の皆さんと盛り上がりました。花火会場で使用する看板の書体や色を見ると、とても味のある感じ。地域の人は同じものをずっと繰り返し使っているのだと思いました」
成羽愛宕大花火実行委員会の事務局を受け持つ成羽愛宕大花火実行委員会の会長で備北商工会 副会長の東健次さんは、地域の文化遺産が次世代に引き継がれることを頼もしく感じています。以前は4日ほどを要していた花火の下絵づくりが今年は半日で終わりました。吉備国際大学Charme岡山高梁の選手たち約40人が交代で描き続けたからです。
堤防への下絵書きが盛大な仕掛け花火を生み出す 写真提供:備北商工会
「成羽愛宕大花火の日には、たくさんの人が町にやってきます。ですから、準備には膨大な人数が関わります。スポーツ選手は作業が早いですね。統率が取れています。各班に分かれて、それぞれにリーダーシップを発揮する人がいる。だから、準備がどんどん進んでいきます」
毎年行われてきた成羽愛宕大花火が最後に行われたのは2017年。2018年は平成30年7月豪雨の被害が甚大で中止。翌年の2019年は突然のゲリラ豪雨で中止。2020年からはコロナ禍で、しばらく開催することができませんでした。今年は、待ちに待った6年ぶりの開催でした。
地域社会の一員として活動する吉備国際大学Charme岡山高梁の選手たち 写真提供:吉備国際大学Charme岡山高梁
吉備国際大学Charme岡山高梁の多くの選手は、4年間の学生生活を終えると別の地域へ転居していきます。しかし、成羽愛宕大花火への協力体制は先輩から後輩へ引き継がれていました。横山萌選手は春に吉備国際大学を卒業します。最後の秋に、大切な文化遺産保護に関わることができました。
「とても良い経験をすることができました。後輩たちは、これからも参加し続けてほしいと思います」
吉備国際大学Charme岡山高梁は、これからも地域社会の一員として市民と共に歩んでいきます。
Text by 石井和裕