連載コラム

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2021年08月19日

日本全国なでしこリーグの街を訪ねて 日体大FIELDS横浜編

横浜市の北部・東急田園都市線の沿線は閑静な住宅街で知られています。横浜市青葉区はベッドタウン。丘陵地に品の良い街並みが続きます。目立つ特徴があるわけではありませんが、あえて、何か一つだけ挙げるとしたら、緑に包まれた日本体育大学 横浜・健志台キャンパスがある地域だということでしょう。今回は、横浜市青葉区で日体大FIELDS横浜をサポートする3組を訪ねました。

日本体育大学 横浜・健志台キャンパス.jpg
日本体育大学 横浜・健志台キャンパス

1日郵便局長が11人!郵便局ならではのアイデアで応援する
青葉台駅前郵便局 局長 村野浩一さん

日体大FIELDS横浜は、なでしこリーグ1部で唯一、大学のサッカー部を母体としたチームです。位置付けは横浜市北部の「地域に根ざしたクラブ」ですが、どうしても大学のサッカー部のイメージが強すぎてしまうのが現状です。

この日、青葉台駅前郵便局 局長の村野浩一さんは「日体大FIELDS横浜ってチームを全然知りませんでした。大学生のチームだと思っていましたが、実は地域のクラブチームだという話を聞いて応援しようと思いました」と、郵便局の2階で話を切り出しました。村野さんにとって、日体大FIELDS横浜が「地域に根ざしたクラブ」であることが最も重要だったのです。村野さんは、青葉台郵便局の屋上でミツバチを飼育することで地域の緑化に貢献し、採蜜したハチミツで商品開発をめざす「青葉台ハニービープロジェクト」等、日頃から地域を元気にする活動に取り組んでいるからです。そして、これまで、ずっと、青葉区に「地域のシンボル」が見当たらないことを気にしていました。

村野さんがスタジアムで応援をするようになって間もなく、日体大FIELDS横浜は2017プレナスなでしこリーグ2部を優勝します。「地域で何かやりたい」と考えた村野さんは、日体大FIELDS横浜に1日郵便局長を提案します。「郵便局長が11人並ぶと面白いかな、なんて思って、11人に1日郵便局長をやってもらうことにしました」

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11人の1日郵便局長と村野さん(中央) 提供:青葉台駅前郵便局

日体大FIELDS横浜は、地域の活動に積極的に参加しています。青葉台東急スクエアとのコラボレーションで『みんなでラジオ体操をしよう!』も行っています(夏休みに開催。2020年・2021年はコロナ禍で中止)。青葉台駅前郵便局は、この活動にも参加しています。「青葉台エリアに郵便局が10局あるのですが、みんなに協力してもらって、一緒にチラシを配ったりしています」と語る村野さん。その結果、『みんなでラジオ体操をしよう!』は300人もの人が集まる地域イベントに成長したのです。

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『みんなでラジオ体操をしよう!』に日本郵便のオリジナルキャラクター「ぽすくま」も参加 提供:青葉台駅前郵便局(撮影:2019年8月)

村野さんの活動が、地域の皆さんを惹きつけるのは、郵便局ならではの工夫があるからです。例えば、青葉台駅前郵便局と小学校でサッカー教室を開催しています。その教室では、ただサッカーを楽しむだけではなく、コーチを担当した日体大FIELDS横浜の選手たちにお礼の手紙を出すための「お手紙の教室」を同時開催しているのです。これが、小学校の関係者や保護者に大好評です。

郵便局が、ここまで熱心に日体大FIELDS横浜を応援する理由は何なのでしょうか。「地域のためですね。地域をいかに盛り上げるかが一番ね。みんな、同じ想いだと思いますよ......アウェイまで、みんなが行くわけではないけどね(笑)」

村野さんは、日体大FIELDS横浜の魅力に取り憑かれ、いつの間にか、アウェイゲームにまで駆けつける熱いサポーターにもなっていました。

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青葉台駅前郵便局 局長 村野浩一さん (※撮影時にマスクを取りました。)

田植え、稲刈り、梅干し作り......選手と一緒に地域の食を届ける
コマデリ こいけひとみさん

青葉台駅前郵便局の村野さんに日体大FIELDS横浜を紹介したのは、キッチンカーで移動販売をしているコマデリのこいけひとみさんです。こいけさんは、生まれも育ちも青葉台。青葉台が大好きで、この地域に深く関りたいと考え、地域の食材を使ったお弁当を販売するキッチンカーやケータリング事業をしています。

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コマデリ こいけひとみさんが手に持つビンには選手が作った梅干しが

試合会場で販売することをきっかけに、日体大FIELDS横浜とのつながりが始まりました。せっかくなら、選手が関わったものを販売したいと考えたこいけさんは、選手と共にお弁当やスイーツを作るようになりました。農家の協力を得て、選手と一緒に田植えや稲刈りを行い、収穫した米を使ったおにぎりを販売しています。味噌も一緒に仕込みました。

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選手と作ったおにぎりを販売 提供:日体大FIELDS横浜オフィシャルサポータークラブBLUES(撮影:2019年)

こいけさんも、村野さんと同じように、日体大FIELDS横浜が「地域のクラブチーム」として青葉台のシンボルになってくれることを願っています。そして同時に、選手たちに青葉台の素晴らしさや、地域のつながりのありがたさを感じてほしいと思っています。

「地域の大切さや面白さに気づくのは、ある程度の年齢になってからですよね。大学で女子サッカーをしている時期には、地域の良さなんて全く感じないはずですよ。でも、将来、日体大FIELDS横浜で過ごした日々を振り返ったときに『こういうことがあったなぁ』と思い出してもらえたらいいな、なんて思いながらやっています」全ては地域のため......そんな想いで活動していたら、そこに日体大FIELDS横浜がありました。

「コマデリのキッチンカーの活動は楽しいし、やりがいがあります。(日体大FIELDS横浜と出会ってから)日体大FIELDS横浜のことをみんなに知ってもらいたい気持ちも加わりましたね」

「オラが街のサッカークラブ」を育てるオフィシャルサポータークラブBLUES 事務局長
柏木由美子さん 事務局次長 山田有香さん

日体大FIELDS横浜オフィシャルサポータークラブBLUES(ブルース:以下、BLUES)は、選手が運営主体を担うサポータークラブです。その活動を具体化するために選手を支援しているのが事務局長の柏木由美子さんと事務局次長の山田有香さんをはじめとする、地域のボランティアスタッフです。青葉台駅前郵便局の村野さんやコマデリのこいけさんの活動を地域の皆さんや日体大FIELDS横浜のファン・サポーターに伝えるのもBLUESの役割です。

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BLUES事務局長 柏木由美子(左)と事務局次長 山田有香さん(右)

柏木さんは、地域メデイア『プロボノ集団スパイスアップ編集部』を軸に、地域の人と人とを結びつける活動をしています。山田有香さんは元幼稚園教諭。青葉区区民企画運営講座『Enjoy!ママライフ』に企画運営の代表として参加しています。

ある日のこと、地域の活動に積極的な有志が勉強会を開催しました。そこに日体大FIELDS横浜のクラブマネージャーがゲスト参加し「オラが街のサッカークラブに進化したい」と、熱いプレゼンを行いました。勉強会に参加していた柏木さんは、すぐに日体大FIELDS横浜の練習試合を見に行きました。練習試合で日体大FIELDS横浜の魅力を知った柏木さんは、自らのネットワークを駆使し、クリエイティブチームを編成。日体大FIELDS横浜のポスターやマッチデープログラムを制作します。さらに、クラブや地域で行われる活動の情報を発信するためのウェブサイトをクラブと選手に提案。その結果、これらの活動はクラブ内から飛び出し、新たな体制で運用することになりました。こうして、クラブ・選手・地元ボランティアが連携して誕生したのがBLUESです。

山田さんはPTAのネットワークを生かした「ふれあいサッカー体験会」を企画しています。そんな山田さんは、柏木さんの「切り口の見つけ方が凄い」と言います。それを柏木さんに聞いてみると「私がJリーグ、横浜F・マリノスのサポーターをやっていて、これまでクラブから受けてきたサービスやコラボイベントの中で良かったことを参考にしてやっています。例えば、マッチデープログラムも、Jリーグのマッチデープログラムを思い浮かべて『ああいうのがあると楽しい』と思いながら作りました」柏木さんのサポーターとしての経験、持っているスキル、そして地域の人材のネットワークがサポーターズクラブの活動を少しずつ広げていきました。

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サポーターズグループ「BIBS」と一緒に実施した「プレイヤーのぼりのオーナー募集企画」

BLUESの活動はファン・サポーターのためだけに行われているのではありません。柏木さんには、選手に伝えたいことがあります。

「日体大の女子サッカー部には60人くらいの選手がいます。なかには、トップチームの試合には出られない選手もたくさんいます。だから、全ての選手が輝ける場所を作りたいと考えています。グッズを選手と一緒に企画したり、イベントを一緒に組み立てたり、メールやSNSの文面の相談に乗ったり......競技以外にもやりがいを持って大学生活・クラブライフを楽しんでほしいです。そして、選手たちには『自分たちには価値がある』ことを知ってほしいですね」

BLUESの活動をするうちに、山田さんは新たな目標を見つけました。なんと、選手のために、スポーツ整体のトレーナーになることを目指して勉強を始めたのです。きっと近いうちに、山田さんはスポーツ整体でも、選手をサポートしていることでしょう。

柏木さんにとって、日体大FIELDS横浜はどのような存在なのでしょうか。柏木さんは、こう言います。

「青葉区にはランドマークになるようなものがありません。特徴がないんです。でも、地元の人が『青葉区には日体大FIELDS横浜がある』と思ってくれたらいいな、と、私は思います」

日体大FIELDS横浜の活動拠点である横浜市青葉区は人口約31万人。人口規模でいえば、ヴァンフォーレ甲府のホームタウンである甲府市(約19万人)を大きく上回ります。日体大FIELDS横浜が「地域のシンボル」となることが、無理な夢には思えない、そんな3組のお話を聞くことができた1日でした。

今回は日体大FIELDS横浜のホームタウン・横浜市青葉区の皆さんを訪ねました。

Text by 石井和裕

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