中国地方の大都市・広島市にはたくさんの川があります。広島市民からは三角州(デルタ)の街と呼ばれています。太田川放水路と旧太田川に挟まれた、横川駅前の周辺には、紫色ののぼりが、ところ狭しと並びます。のぼりは瀬戸内海へと流れる風を受けて揺れています。アンジュヴィオレ広島は、ここ広島市西区の横川・三篠地区から熱烈な応援を受けるクラブです。今回は、広島市西区を訪ねます。そして、西区を訪ねる前に、ユニフォームスポンサーのお話をうかがいました。
横川本通り
「頑張っているアンジュヴィオレ広島は格好いいと思う」10年続くユニフォームスポンサー 食協株式会社 代表取締役社長 武信和也さん
食協株式会社(以下:食協)の本社は広島駅の近く、京橋川と猿猴川の中間にあります。食協は、長年に渡り、ママさんバレーボールや少年ソフトボールの大会運営に携わってきました。アンジュヴィオレ広島のチーム設立時から、ユニフォームスポンサーとして応援しています。今年はさらにチームを盛り上げるために14名のプロジェクトチーム「アンジュ応援メンバー」を結成。全社を挙げてアンジュヴィオレ広島をバックアップしています。
左:食協株式会社 代表取締役社長 武信和也さん 右:米穀部米穀企画課 新藤麻厘さん 新藤さんを中心に開発したホーム開幕戦を記念したキューブ米 (※撮影時にマスクを取りました。)
代表取締役社長の武信和也さんは、このように言います。「昔、カープは弱かったんですよ。私は弱いチームが好きだったので、言い方は悪いですけど、弱ければ弱いなりに一生懸命頑張る姿を支援したい。どのような世界においても、頑張っている人は格好いいと思うんですね。アンジュさんも、はじめは下位でも、いずれは一番に......優勝するでしょう」
武信さんは、少しでもアンジュヴィオレ広島に市民の注目を集めようと、さまざまなコラボや支援を行っています。ホーム開幕戦を記念したキューブ米の発売、お米のプレゼント、「アンジュヴィオレの旋風」田んぼアートの制作、アンジュヴィオレ広島の稲刈り参加......。「アンジュさんが一生懸命に取り組む姿をテレビ、新聞、いろいろなところで見せる場を作れば、魅力を感じてもらうことに繋がります。ですから、小学生向け食育事業の工場見学会なども、アンジュと絡めていきたいです」
アンジュヴィオレ広島のチーム結成以来、食協は、ずっとユニフォームスポンサーを務めています。武信さんは、アンジュヴィオレ広島のどこに魅力を感じているのでしょうか。「やっぱりチームワークが良いですね。チームワークが良ければ、練習で経験を積むと、だんだん上がっていきますよ。まずはチームワークが良くないとなかなか上らないです。会社もそうだと思います。伸びる会社というのはチームワーク、『報連相(ほうれんそう)』が徹底して連携が取れている。そういう意味では、アンジュのチームワークを見習いながら、弊社も成長していきたいと思っています。」
あの巨大な幕は何?アンジュヴィオレ広島と「元気アップをめざしたまちづくり」 広島市 西区長 戸田祐二さん
広島市西区は8つの区の中で二番目に人口が多い区です。宮島へ向かう交通の起点となる地域です。西区役所の職員の中には、熱烈にアンジュヴィオレ広島を応援する職員もいるらしく、区役所の1階ロビーにはアンジュヴィオレ広島、ヴィクトワール広島(ロードレースチーム)の展示コーナーがあります。西区ではアンジュヴィオレ広島、ヴィクトワール広島、広島ドラゴンフライズ(B.LEAGUE)が活動しています。西区は「元気アップをめざしたまちづくり」を掲げ、スポーツを通じた地域の取り組みを行っています。
「アンジュヴィオレ広島さん、ヴィクトワール広島さん、広島ドラゴンフライズさんに区の行事へ積極的に参加していただき、一緒に地域の一体感を醸成しています」と、3つのスポーツクラブに感謝するのは西区長の戸田祐二さんです。サッカー経験者とのこと。
広島市 西区長 戸田祐二さん (※撮影時にマスクを取りました。)
西区は、毎年「トップアスリートとわくわくうんどうかい」を開催しています。これはアンジュヴィオレ広島、ヴィクトワール広島、広島ドラゴンフライズの3クラブの選手と、小学生の子どもたちがチームに分かれ行う「うんどうかい」です。子どもたちは、トップアスリートの素晴らしいパフォーマンスを間近に見ることができ、力強さやスピード、技術を体感できます。
西区の中心地のひとつ、横川駅には「アンジュヴィオレ広島を応援する幕」が設置されています。この巨大な幕は西区地域起こし推進課が行っているスポーツによる地域起こしの取り組みです。掲出場所がエディオンスタジアム広島へ向かうシャトルバス乗り場の近くなので、広島県外のJリーグ・サポーターの間で「アンジュヴィオレ広島って何?」「横川すごいね!」と話題になります。
横川駅の「アンジュヴィオレ広島を応援する幕」
その話を聞いた戸田さんは「県外の方が来られてそういう評価をしていただいているというのは心強いです。横川の街が一体になってアンジュヴィオレ広島をバックアップしていますね。選手の皆さんも、この街で働きながら地域の一員として生活しています。おらが街のチームがあるのはとても良いと思っていますし、区としても、区のやりたいことに、しっかりとアンジュヴィオレ広島を組み込んでいけるよう、皆さんと一緒に西区を盛り上げていきたいです」
アンジュヴィオレ広島は、2021年で設立から10年。西区の皆さんと共に頂きを目指して歩を進め、西区のシンボルにまで成長したようです。
ボール拾いを10年間続ける横川の「お調子もん」 打越町町内会長 沖田晴信さん
横川は、街角に多数の壁画が描かれた楽しい街です。「カンパイ!を世界の共通語に」を合言葉に、アート、レトロ、サブカル、ゾンビ......常にユニークなイベントを開催しています。アンジュヴィオレ広島は、この元気な街で生まれました。
「お調子もんが多いんです」と、横川の街を語るのは打越町町内会長の沖田晴信さん。「初めはアンジュヴィオレってとっつきにくかったんですけど、今じゃ、この地区で知れ渡っとる。『頑張ってやっとるじゃ』ゆう感じで、みんなから応援をしていただいておりますね」
地域イベント『クレイジーホラー2021』に島田優依菜選手、渡谷祥乃選手がゲスト出演
「熱烈にアンジュヴィオレ広島を応援している人は誰か?」と質問すれば、この街の人の多くは沖田さんの名前を挙げます。
「ボール拾い隊」と呼ばれる3人のメンバーがいます。アンジュヴィオレ広島のアカデミーは、週に3回、小学校の校庭を借りて練習しています。その練習に立ち会ってボール拾いをしているのです......10年間、3人のうち、誰かが必ず駆けつけてきました。沖田さんも、その一人です。
「雨でも雪でも、暑いときでも、ワシら『お調子もんか』言われても『ええよ、勝手に言えぇ』いうぐらいで。ワシら好きでやっとんじゃけね。引くに引けんいうのがあるし、お互い。10年もやろう思うたら、もうやめようかいう話は一切ないですからね。10年間、スタンスは変わらんですね。変わったのはLINEで連絡を取るようになったことくらい(笑)」
打越町町内会長 沖田晴信さん (※撮影時にマスクを取りました。)
沖田さんは、いつでも変わらず校庭に立ち、アカデミーの選手から「おっちゃん」と呼ばれ親しまれています。雨の日に傘を差し、雪の日にマフラーと手袋をし......。「雪の日は、ワシら動かんから足先がカチカチになるんですよ。おお、寒いのぉ言うてから」
最近、沖田さんが気にするようになったのは、こうしたアンジュヴィオレ広島を支える仲間の若返りです。「ボール拾い隊」を始めたのは56歳のとき。今年で66歳になりました。「若い人がね、ちょっとおらんよね。だんだん僕らの世代は年齢が上がってきよるし、次の人がやってもらわないけんこともある」
なぜ、沖田さんは、そこまで熱心にアンジュヴィオレ広島を応援できるのでしょう。聞いてみると答えはシンプルでした。「やっぱり好きなんじゃろうね。好きじゃけぇ、できるんじゃろうね。好きというか、もうライフワークの一部。それに、彼女たちにね、パワーをもろとるんです」
お話を聞いているだけで、こちらも元気が出てくる力強い広島弁。アンジュヴィオレ広島〜沖田さん〜筆者へと、パワーがリレーされてきたようです。
横川・三篠地区は「国産バス発祥の地」。「お好みソース」が生まれ、なでしこリーグのサプライヤーである株式会社モルテンが育ちました。「来る者拒まず」「何でもやれる」この街で熱烈な後押しを受け、そして、スポンサー、サプライヤーの支援に応え、アンジュヴィオレ広島は次の10年に踏み出します。
今回はアンジュヴィオレ広島のホームタウン・広島市の皆さんを訪ねました。
Text by 石井和裕