連載コラム

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2021年09月16日

日本全国なでしこリーグの街を訪ねて オルカ鴨川FC編

千葉県鴨川市は房総半島の南部に位置するリゾート地です。波を求めてサーファーが集う海岸沿いに、別荘、ホテル、ヨットハーバー、カフェ等が並びます。その中心地といえるのが、多くの選手が働く亀田総合病院と鴨川シーワールドが集まる一角です。今回は、汐風が香るビーチサイドで、オルカ鴨川FCのお話をうかがいます。

集合写真クレジットあり.jpg
オルカ鴨川FCの選手集合写真 「オルカ」はシャチの学名Orcinus orca(オルキヌス・オルカ)が由来

日本で一番「シャチに応援されるチーム」ですね 
鴨川シーワールド セールス&マーケティング支配人 中橋健二さん

オルカ鴨川FCの選手集合写真は一風変わっています。整然とかしこまった青いユニフォームの選手の後ろに、巨大な水槽と飛び跳ねるシャチの姿があります。撮影場所は鴨川シーワールド。2021年に開業50周年を迎えた水族館です。日本国内でシャチのパフォーマンスを見られるのは、ここだけです。
オルカ鴨川FCの選手集合写真の撮影日は毎年2月11日。鴨川市の市制記念日です。この日、鴨川市民は入館無料の『鴨川市民DAY』。たくさんの市民の前で、オルカ鴨川FC監督、新メンバーからの挨拶、鴨川シーワールドからオルカ鴨川FC選手への年間パスポート授与式等が行われます。そして、オーシャンスタジアムで撮影です。
「よく『合成じゃないか?』と言われますが、毎年、撮影している完全な本物です」と教えてくれたのはセールス&マーケティング支配人 中橋健二さんです。
「百発百中で撮影していて、これまで失敗はありません。撮影後にシャチが着水したときに、選手はバッシャーンと水を被ります。だからワンチャンス。寒い2月なので頑張っても2回しか撮影できない。本当に、もう、かなりの水を被りますから、みんなキャーキャー言っていますね」
これを1回のジャンプで撮影するには、かなり念入りな準備が必要です。そして準備をするのは人だけではありません。シャチが事前に飛ぶ位置を確認するためのリハーサルを行うのだとか。オルカ鴨川FCと鴨川シーワールドのスタッフ、さらにはシャチの連携プレーで撮影されているのですね。

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テールバースト (水しぶきのプレゼント)  (撮影:2019年)

それともう一つ、鴨川市民の皆さんは「テールバースト (水しぶきのプレゼント) 」を楽しみにしています。
「シャチが尾びれで、水をバッサバッサ、1分間くらいかけ続けます。寒い2月にやるので、すごく盛り上がりますね。シャチからオルカ鴨川FC選手への激励ですよ(笑)」
2021年は新型コロナウイルス感染症対策のため、オルカ鴨川FCが『鴨川市民DAY』に参加できませんでした。すると、鴨川シーワールドに、かなりの問い合わせが入ったそうです。
「市民にとってもオルカさんのイベントは毎年恒例になっているんですよ」と中橋さん。新型コロナウイルス感染症が鎮静化したら、また復活してほしいですね。

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鴨川シーワールド セールス&マーケティング支配人 中橋健二さん(左) 広報 杉本夏子さん(右)

オルカを育て街に活気を呼び込みたい、元気の水先案内人 
オルカフレンズ オルカ鴨川FC後援会 会長 樋口洋子さん

日本の渚百選に選ばれた前原・横渚海岸(まえばら・よこすかかいがん)は、緩やかに弧を描いた、鴨川市民自慢のビーチです。鴨川シーワールドから続く海岸線の遊歩道は、オルカ鴨川FCの選手たちのランニングコースになっています。海辺のカフェの前に颯爽と現れたのは、オルカフレンズ オルカ鴨川FC後援会 会長 樋口洋子さん。鴨川市内でペンションを経営しています。

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前原・横渚海岸の遊歩道

オルカフレンズ オルカ鴨川FC後援会はオルカ鴨川FC発足と同じ2014年に誕生しました。亀田医療大学で設立総会を開催。樋口さんは、そのとき後援会長に就任しました。
「この後援会は、自発的な『自分たちがやります』みたいな団体です」と樋口さん。企業や経済団体のような大きな母体を持たないのです。オルカを育てたい、街に活気を呼び込みたい、と考えた地域の皆さんが集まって立ち上げました。初めの頃は手探りで、振り返ってみれば、笑ってしまうような出来事もあります。
「鴨川市以外の会場で試合をやるというので事務所に電話をかけて『応援バスって出ないんですか?』と聞きました。『そういう予定はありません』って言われたのですが、今思えば、電話の相手は北本さん(北本綾子 当時監督:現GM)でした。当時のオルカはメンバーが少なくて北本さんがほとんど一人でやっていた。北本さんと喋ったのは、多分、その電話が最初だと思いますよ(笑)」

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オルカフレンズ オルカ鴨川FC後援会 会長 樋口洋子さん (※撮影時にマスクを取りました。)

オルカフレンズ オルカ鴨川FC後援会が、今、最も力を入れている活動が『オルカ横丁』です。ホームゲーム開催時に、スタジアムの敷地内に10軒近くの屋台が出店。これが鴨川の名物にまで成長しました。
「今は食べ物屋さんだけの『オルカ横丁』ですが、鴨川市の産品も販売できたら面白いと思います。地元で採れた野菜とかお米とか......上手くできれば、次はアウェイのスタジアムにも出張して開催したい」今は、新型コロナウイルス感染症対策のために限定的な開催となっていますが、将来の夢は広がっています。

オルカ横丁クレジットあり.jpg
試合開始時刻のかなり前から賑わう『オルカ横丁』 (撮影:2019年)

「オルカ鴨川FCがもっと大きくなって、鴨川の元気の中心になってもらいたいね。今だって試合に勝った日なんて『勝ったねー!』って言いながら、青いシャツ着たおじいちゃんおばあちゃんがスタンドから出てきますから。すごく良い雰囲気ですよ。(街とオルカ鴨川FCが)一心同体みたいですね。他人事で試合を見ていたら、そんなふうにはならないですから」
オルカフレンズ オルカ鴨川FC後援会は、会員の協力を得て集めた後援会費の一部を選手育成費としてオルカ鴨川FCに提供し、クラブを支えています。会員の皆さんは、アカデミーから選手が育つことを楽しみにしています。
樋口さんの自慢は「みんなが自発的に楽しんで応援している」ことだそうです。オルカ鴨川FCのあるこの街を「好きすぎて困っています」と、笑って話してくれました。

優勝の準備は、頭の中でできている 
千葉県鴨川警察署 次長 藤代宣明さん

ホームゲーム開催日が近づくと、必ずオルカ鴨川FCファンショップ「Blauer Kreis」(ブラウワー・クライス)に現れる1名の男性......藤代宣明さんです。藤代さんは、チケットを店頭で購入。全てのホームゲームを観戦しているのです。「Blauer Kreis」から徒歩5分の距離にある千葉県鴨川警察署でお話をお聞きしました。

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千葉県鴨川警察署 次長 藤代宣明さん

藤代宣明さんは千葉県鴨川警察署 次長。お気に入りの選手は南山千明選手です。
「押されていた試合の最後のワンチャンスを南山選手が決めた試合がありました。大いに盛り上がりました。その日の夕方に偶然、市内で南山選手とオルカの選手らしき人が買い物しているところを見かけました。オルカは地元のクラブなんだなぁと思いました。鴨川市内のたくさんのお店にオルカのポスターが貼ってあって、この地域で応援していない人はいないんじゃないかって思うくらい、みんな応援していると思います」
オルカ鴨川FCが設立された2014年当時も藤代さんは千葉県鴨川警察署に勤務していました。7年前と比べると、今は、街に活気があると感じるのだそうです。

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一日警察署長の南山千明選手(左)と吉田亜寿佳選手(右) 鴨川シーワールドにて

千葉県鴨川警察署では、鴨川市民からの絶大な支持を受けるオルカ鴨川FCに全国交通安全運動出動式の協力を依頼しています。選手が一日警察署長を務めます。
「オルカ鴨川FCの選手が青いユニフォームを着て交通事故防止、交通安全を呼びかけてくれると非常に効果が大きいです。我々よりも影響力のある人に声をかけてもらった方が良いですね(笑)」
2016プレナスチャレンジリーグプレーオフ順位決定戦第3節では、鴨川陸上競技場にファン・サポーター1,116人が詰めかけ満員。勝利したオルカ鴨川FCが2016プレナスチャレンジリーグを優勝し、鴨川の街は大いに盛り上がりました。もし、オルカ鴨川FCがなでしこリーグ1部を優勝したら、この街は大変な騒ぎになりそうです。きっと藤代さんも大喜びされるだろうと思い「優勝したらどうしますか?」と聞いてみました。すると、警察署 次長らしい答えが瞬時に返ってきました。
「優勝したら、当然、パレードやりますよね?交通規制や警備に忙しくなりそうです」
既に、藤代さんの頭の中では、優勝パレードのコースも準備も整っているのかもしれません。青いシャツの市民の波をかき分けて、力強く前へ進んでいくオルカ鴨川FCの選手たちの姿が目に浮かびますね。

この地域には、街を挙げての応援があります。青い海のある街には、青いシャツがよく似合う。

今回はオルカ鴨川FCのホームタウン・鴨川市の皆さんを訪ねました。

Text by 石井和裕

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