連載コラム

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2021年09月30日

日本全国なでしこリーグの街を訪ねて 伊賀FCくノ一三重編

三重県伊賀市は、三重県の内陸部にあり、京都府、奈良県、滋賀県の3県と隣接しています。大阪、京都、奈良や伊勢を結ぶ3つの街道が交わる忍びの里です。伊賀市には、伊賀忍者と城下町の家並を目当てに多くの外国人観光客が来訪します。街の至る所に忍者のイラストが描かれ、上野市駅には「忍者市駅」の愛称が付けられています。今回は、そんな忍者だらけの伊賀市に忍びこみ、伊賀FCくノ一三重を応援する3組を訪ねました。

忍者市駅.png
上野コミュニティバス・にんまる、忍者市駅、伊賀上野城

伊賀の名前を全国に広めてもらいたい
伊賀市長 岡本栄さん

伊賀市はスポーツ振興やスポーツ文化ツーリズムに積極的に取り組んでいます。歴史・文化体験とスポーツを融合した『伊賀忍道』体験プログラムづくりはスポーツ文化ツーリズムアワード2019「文化ツーリズム賞」を受賞しました。1976年に誕生した伊賀FCくノ一三重は、女忍者をクラブ名称のモチーフにし、長い歴史を歩んできた女子サッカークラブです。現在は母体企業を持たずに活動しているため、伊賀市民から「市民クラブ」と親しまれています。
最初にご紹介する訪問先は伊賀市役所。岡本栄市長を訪ねました。市長室の扉に驚きました。手裏剣が刺さっています。この部屋にも忍びの者が潜んでいるかもしれません。緊張しながら、お話をうかがいました。

市長 (1).jpg
伊賀市長 岡本栄さん

繊細な美しさをもつ伊賀組紐で作ったマスクをつけた伊賀市長 岡本栄さんは、自らも剣道・北辰一刀流、弓道・日置流印西派、水泳・泅水術観海流(しゅうすいじゅつかんかいりゅう)、フェンシング、乗馬を嗜むスポーツマンです。
伊賀市は、昔からマラソンが盛んで『忍者の里伊賀上野シティマラソン』『忍者トレイルランニングレース』には多くのランナーが広域から参加します。ランナーの多くは、大会の前後に忍者観光や伊賀牛を満喫。スポーツは、伊賀市に外から人を呼び込むきっかけづくりになってきました。
「サッカーも伝統的に盛んですね。くノ一さんが誕生して、地域の声援を受けてここまできた。歴史の積み重ねがあって、今や地域スポーツです。くノ一さんには伊賀市観光大使になってもらっているので、伊賀の名前を全国に広めてもらいたいですね。頑張ってね」
岡本さんに、お好きな選手を聞いてみました。すると、返ってきたのは、意外な名前でした。
「一番好きなのはくノんちゃんです。くノんちゃんは愛想が良い。それと、キレッキレのダンスが良い」
キックインセレモニー等で試合会場に来場する際はくノんちゃんと会うのが楽しみなのだそうです。市長を魅了するとは、なかなかの腕前の忍者です。

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くノんちゃん 提供:伊賀FCくノ一三重

伊賀FCくノ一三重が、伊賀市民からさらに大きな声援を受けるには、どのようなクラブになれば良いのでしょう。
「とにかく強くなってほしい!他のチームにない『さすが伊賀のチームだな』という特色を持ってほしいですね」
忍者、城下町の家並、上野天神祭のダンジリ行事、伊賀焼、伊賀牛......伊賀市にはたくさんの魅力があります。伊賀FCくノ一三重のサッカーも、その一つとして全国から知られる存在になることを岡本さんは期待しています。

真っ黒に日焼けした大嶽直人監督の熱い気持ちが伝わります
サンピア伊賀 代表取締役社長の松川英一さん

伊賀市は忍者だけではありません。歴史に残る偉人が、伊賀市で生まれています。その一人が俳人・松尾芭蕉です。俳諧文化の根付く伊賀で名を馳せた松尾芭蕉は、その後、全国の名勝を訪ねて多くの句を詠みました。伊賀FCくノ一三重のコンディショニングサプライヤーであるヒルホテル サンピア伊賀1階には、偉人の名をいただいた『天然温泉 芭蕉の湯』があります。選手は名刺を提示することで入浴無料。でも、多くの選手は毎日のように利用するので、ほとんど顔パス。実際に名刺を提示しているのは新加入選手くらいだそうです。同じく選手が使用可能なメディカルフィットネスジム『VITALEZZA(ビタレーザ)』(2階)と併せて、選手のコンディションづくりに一役買っています。
「もっと地元の人が応援に行かないとね。うちの従業員にも応援に行ったことがない人がいたので、一緒にスタジアムに行きました。一度行くと真剣に応援してしまいますね。やっぱり実際に試合を見ないと魅力が分からないと思いますね」と語るのは、株式会社伊賀 サンピア伊賀 代表取締役社長の松川英一さんです。

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本館ロビーの「だまし絵」の前で サンピア伊賀 代表取締役社長 松川英一さん(左)、支配人 宮岡秀樹さん(右)

「大嶽直人監督は、人間性がものすごく出ている人だと思います。いろいろな面で熱いですね」
大嶽監督も『天然温泉 芭蕉の湯』を利用します。「今年は就任3年目。2010年から12年までの3年間と合計で6年間も監督をやってくれています。6年もやれば、伊賀に愛着もあるだろうし、さらにチームを強化してもらえるように頑張ってほしいです」
サンピア伊賀を利用するスポーツチームは、伊賀FCくノ一三重だけではありません。伊賀市を遠征や合宿で来訪する様々なスポーツチームがサンピア伊賀に宿泊します。松川さんによると、一般の宿泊客とスポーツチームでは、提供する食事が異なるのだそうです。チームによっては管理栄養士から、事前にリクエストがあります。牛乳をつけてください、オレンジジュースをお願いします、納豆をつけてください、生ものは外してください......プレーする選手のために、多くの要望に応えてきました。
サンピア伊賀は、宿泊施設の立場から伊賀FCくノ一三重と伊賀市のスポーツ振興を応援しています。

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サンピア伊賀で開催されてきた新体制発表等のイベント(撮影:2019年) 提供:伊賀FCくノ一三重

シニアサッカープレーヤーが率いる市民のためのテレビ局
伊賀上野ケーブルテレビ株式会社 代表取締役社長 小坂元治さん、制作グループ 山本智章さん

伊賀上野ケーブルテレビは営業エリアの世帯普及率65%(2020年11月現在)。地域情報を発信するコミュニティチャンネルが人気の伊賀市に根ざしたテレビ局です。
伊賀上野ケーブルテレビ株式会社 代表取締役社長の小坂元治さんは40歳以上のサッカー愛好者で構成されたクラブチーム『伊賀FCシニア』でプレーヤーとして活躍しています。また、担架スタッフとして伊賀FCくノ一三重のホームゲームの運営に携わることもある、生粋のサッカー愛好家です。

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伊賀上野ケーブルテレビ株式会社 代表取締役社長 小坂元治さん(※撮影時にマスクを取りました。)

伊賀FCくノ一三重の今シーズンについて聞いてみました。
「ボールを追いかける姿、一生懸命プレーしている姿は男子と変わらないので、見ていて楽しいです。あれだけ運動量豊富にラインを上げ下げしているのだから、選手は(前後半)45分間を走り切るのはきついだろうなと思うときはありますね」
小坂さんは「女子サッカー選手の頑張りはすごい」とリスペクトし、その上で、さらに質の高いプレーに期待します。伊賀市には、伊賀FCくノ一三重のサッカーの特徴を詳細に語る経営者がいる......それを羨ましく感じます。
小坂さんが率いる伊賀上野ケーブルテレビが伊賀FCくノ一三重の最新情報を伊賀市民に伝えています。番組作りに熱が入るのも納得ですね。
制作グループの山本智章さんは伊賀FCくノ一三重の番組の主担当。2017年から伊賀FCくノ一三重の番組制作に関わっています。担当になったばかりの2017年に、2017プレナスなでしこリーグ1部を最下位で終えた伊賀FCくノ一三重は2部に降格。翌2018年に、山本さんは、1部昇格を目指して頑張る選手を追いかける番組を制作しました。印象に残っているのは2018プレナスなでしこリーグカップ2部の決勝戦で東京まで取材に行ったこと。当時キャプテンだった杉田亜未選手にインタビューしました。

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伊賀上野ケーブルテレビ株式会社 制作グループ 山本智章さん 好きな選手は小川志保選手

「涙ながらに語ってもらいました。ここまで、簡単な道のりではなかったのだと思いました。『1年でなでしこリーグ1部に復帰する』というプレッシャーも言葉から感じました。伊賀FCくノ一三重は2018プレナスなでしこリーグカップ2部を優勝、2018プレナスなでしこリーグ2部も優勝し、なでしこリーグ1部に1年で復帰しました。プレッシャーに打ち勝った選手の底力を感じました」
山本さんは、数ある仕事の中で伊賀FCくノ一三重の取材が最も楽しいのだそうです。選手たちによる様々な地域貢献も取材し、番組を通して、伊賀FCくノ一三重を伊賀市民の身近な存在にしていきたいと考えています。
「伊賀FCくノ一三重は『市民クラブ』です。市民との触れ合いから伊賀の強みが生まれています。それが応援につながって、地域が盛り上がっていくと思います。もっと広く市民に選手を知っていただくために、私たちがお手伝いしていきます」

伊賀FCくノ一三重は1976年から、ずっと市民の傍らにあります。これからも、伊賀市民と共に歩み続けます。応援する気持ちは忍んでいられない......ついつい熱く語ってしまう3組とお会いすることで、多くの伊賀市民が、伊賀FCくノ一三重を「市民クラブ」と呼ぶ理由を感じることができた気がします。

今回は伊賀FCくノ一三重のホームタウン・三重県伊賀市の皆さんを訪ねました。

Text by 石井和裕

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