高梁市は岡山市から約30分、岡山県の中西部に位置する自然豊かな街です。そのシンボルは備中松山城。国の重要文化財であり、現存する天守を持つ日本一高い山城です。山の麓に吉備国際大学と吉備国際大学Charme岡山高梁(シャルムおかやまたかはし)の事務所があります。
吉備国際大学Charme岡山高梁は吉備国際大学を中心としたクラブチーム。街には多くの大学生と選手が生活しています。
今回は、吉備国際大学Charme岡山高梁のホームタウンである高梁市を訪れます。
備中松山城
ただ、吉備国際大学Charme岡山高梁が好きなだけ
「吉備国際大学Charme岡山高梁を高梁市民で応援しよう有志の会」代表 高梁市議会議員 平松久幸さん
「吉備国際大学Charme岡山高梁を高梁市民で応援しよう有志の会」は市内の青年部、婦人団体メンバーを中心に発足しました。最初の活動は2013年3月2日に高梁市文化交流館で開催した激励会(共催:FC高梁吉備国際大学ファンクラブ)。参加者200人を予定していましたが、それを大きく上回る約400人の市民が詰めかけ、初の1部リーグ(プレナスなでしこリーグ2013)に挑戦する選手たちを熱く激励しました。
「腰に手を当てて『がんばろー!』って拳を振り上げたら『そりゃ選挙じゃねえんじゃけぇて。サッカーの応援見たことねえんか。オーレオーレいうのがサッカーの試合じゃ』と注意されました(笑)」
と笑うのは、代表の平松久幸さんです。
吉備国際大学Charme岡山高梁を高梁市民で応援しよう有志の会 代表 高梁市議会議員 平松久幸さん (※撮影時にマスクを取りました。)
当時「吉備国際大学Charme岡山高梁を高梁市民で応援しよう有志の会」の活動は手探りのスタートでしたが、地元のクラブが1部リーグで戦うことに、市民から大きな期待が集まっていました。そして迎えた開幕戦はアウェイゲームから。
太田監督が「平松さん『勝ちますよ』」と言うので東京まで行ったんですよ。相手は日テレ・ベレーザ。僕は沖縄の民芸品の太鼓を持っていきました。叩いたらすぐ係員が来て『ここは(禁止なので)太鼓ダメです』と言われて『なんじゃそりゃ』って拍子抜けになりました。しかも、勝てると聞いていたのに0-2で負ける。誘ってくれた人が『平松さんにカッコ悪いところ見せたな』と言っていました。彼らは勝つ気でいたのです」
最初は日テレ・ベレーザの強さすらよく知らなかった平松さんですが、気がつけば応援を始めて9年の年月が経とうとしています。この日のネクタイはチームカラーの黄色でした。
「ただ、吉備国際大学Charme岡山高梁が好きなだけ。(スタジアムの雰囲気が好き?)いや雰囲気は全然。だって、最近は試合の8割は勝てないですよ。(笑)」
確かに、吉備国際大学Charme岡山高梁の勝率は高くありません。それでも、平松さんは、大事な試合にはスタジアムへ足を運ぶのでした......勝ち負けを超えて、ただ、地元のクラブを応援したいという想いで。
選手、監督、コーチ、スタッフに助けてもらったことは忘れない
「花のれん」女将 江草純子さん
高梁川にほど近い、京懐石の「花のれん」は、季節と地元食材を大切にする日本料理処です。川魚や松茸といった地元食材を中心に、瀬戸内の新鮮な魚介や山里の恵みを取り入れて「幸せになる食事」をご提供しています。
女将の江草純子さんは「吉備国際大学Charme岡山高梁を高梁市民で応援しよう有志の会」の中の婦人団体「シャルムの母」のメンバーとして活動しています。コロナ禍になる以前は、メンバーが豚汁を作って練習グラウンドで選手に提供したり、一緒におにぎりを作ったりしていました。
吉備国際大学Charme岡山高梁は吉備国際大学の学生を軸にチームを構成しています。コロナ禍になる前は、毎年「吉備国際大学Charme岡山高梁を高梁市民で応援しよう有志の会」が中心になって4年生のための「卒業式」を開催していました。会場は「花のれん」でした。江草さんによると「卒業式」は、吉備国際大学Charme岡山高梁にとって重要な行事なのだそうです。
「花のれん」女将 江草純子さん
「2階の座敷の床が落ちるんじゃないかってくらい人が来ます(笑)。本当に良い会ですよ。卒業する選手に平松さんが『卒業証書』を贈ります。『卒業証書』にはその選手に合わせたメッセージが書かれていて、それを読み上げます。在校生は「卒業生」を涙で送り出します」
「花のれん」は事業継続の大ピンチを迎えたことがあります。原因は平成30年7月豪雨(西日本豪雨)災害です。死者237名(広島県115名、岡山県66名、愛媛県31名、他府県25名)、行方不明者8名、重軽傷者は432名の大災害。高梁川の支流(小田川)が本流の高梁川に合流する際に水がせき止められる「バックウォーター現象」等が発生し小田川等の堤防が決壊。大きな被害をもたらしました。「花のれん」は、腰高くらいの床上浸水の被害を受けました。
地域コミュニティの拠点である「花のれん」をいち早く復活させたいと考えていた江草さんですが、あまりの被害の大きさに途方に暮れていました。そのとき、吉備国際大学Charme岡山高梁の選手たちが突然「花のれん」に現れました。
「大きなテントを外に作って、調理器具や食器を全部、出してくださいました。それに、床下に入って泥水を掻き出してくださり本当に感謝しています。1日だけじゃなかったですよ。選手が、交代で次々に来てくださり、作業を進めて『花のれん』はいち早く復活できました」
江草さんは、このときの記録を『復興に向かって(西日本豪雨の記録)』という本(写真集)に残しています。その中には、復興作業のために「花のれん」を訪れた吉備国際大学Charme岡山高梁の選手たちの写真が掲載されています。どの選手も、お世話になった江草さんを元気付けるためなのか、輝くような笑顔で写っていました。
「卒業式」で知った市民の想い
イーグル工業株式会社 業務部長 中島健輔さん
業務部 主査 和田保美さん
吉備国際大学Charme岡山高梁を支援するスポンサーの数は多く、試合会場で社名を読み上げると7分間を要するそうです。イーグル工業株式会社は、そんなスポンサー企業の一つです。
イーグル工業株式会社の岡山事業場には約900名の従業員が勤務しており、自動車向けのメカニカルシールやカーエアコン向けのコントロールバルブなど、各種機能部品の製造を行っています。
イーグル工業株式会社 業務部長 中島健輔さん(左) 業務部 主査 和田保美さん(右) (※撮影時にマスクを取りました。)
業務部長の中島健輔さんの下では、1名の選手と、熱心に応援してきたサポーターが勤務しています。
「私は、どちらかというと野球が好きで、勤務するまでは市内にある平松政次球場の方が気になっていました」という中島さん。転勤でこの街に来たのは2年前で、それまでは高梁市のことをよく知らなかったそうです。
「城下町の古い街並みが残っていて風情があると思いますね。高梁川を中心とした一帯に歴史が感じられるのが良いと思いますね。イーグル工業は、高梁の地で50年間も事業を継続させてもらっています。地元企業として、地域の文化やスポーツを応援していきたいという思いがあり、吉備国際大学Charme岡山高梁も発足当時から応援しています。」
中島さんと吉備国際大学Charme岡山高梁の関わりは、あの「卒業式」から始まりました。
「転勤してきてすぐに『卒業式』へ連れて行かれました。吉備国際大学Charme岡山高梁は、地元に愛されているチームだなってすごく思いました」
中島さんを「卒業式」へ誘った......というよりも強引に連れて行ったのは、同じ業務部に勤務する和田保美さんでした。和田さんは高梁育ち。以前は太鼓を叩いたり、応援歌を歌ったりして吉備国際大学Charme岡山高梁の応援を一から作り上げていたサポーターのお一人です。転勤してきた中島さんに、愛するチームへ関心を持ってもらいたかったのが、「卒業式」へ誘った動機だそうです。
「『卒業式』から中島さんは吉備国際大学Charme岡山高梁のことをすごく気にかけてくださるようになりました」
和田さんの狙いは的中したようです。
現在、イーグル工業株式会社 業務部に勤務する西村留亜選手はシャルムU15、そして岡山県高梁日新高等学校の出身。吉備国際大学を経由しないで吉備国際大学Charme岡山高梁に加入した選手です。2015年から2018年まで吉備国際大学Charme岡山高梁でプレーしていた池尻茉由選手(現・WEリーグ マイ仙台)が憧れの的です。
「楽しみながらプレーしたいです。勝つと楽しいので勝ちたいです」西村留亜選手 (※撮影時にマスクを取りました。)
「シャルムU15に所属して吉備国際大学Charme岡山高梁のボールパーソンをしているときから憧れでした。池尻茉由選手と同じ背番号11を背負ってプレーするようになり嬉しいです。会社の人は、とても優しいです」
「西村さんはサッカーと仕事を立派に両立させてくれています」と話すのは上司にあたる中島さん。「西村さんがアウェイで遠征に行くときは、必ず『福岡頑張ってね』とか『気をつけて北海道に行ってきてね』とか声をかけますよ。勝って帰ってきたら、朝礼で『見事シャルムが勝利しました。西村さんも頑張ったね』とみんなの前で言います。負けたときは何も言いません(笑)。チームの成績が上がっていけば、ウチの従業員も高梁市民の皆様も、もっと喜んでくれると思います」
高梁市は四方を山に囲まれ、流れる川の近くで人々が暮らす街です。吉備国際大学Charme岡山高梁のアットホームな雰囲気は、この街特有の高い密度と人々の温かさによってもたらされたのだと思います。
今回は吉備国際大学Charme岡山高梁のホームタウン・岡山県高梁市の皆さんを訪ねました。
Text by 石井和裕