FCふじざくら山梨は、その名の通り富士山麓で生まれたクラブです。山梨県南都留郡鳴沢村にある総合スポーツ宿泊施設・FUJI VILLAGE(フジビレッジ - 富士緑の休暇村)を練習拠点とし、近隣の富士河口湖町と富士吉田市でも活動しています。今回は、この地域を深く愛しFCふじざくら山梨を応援する人々を訪ねてみましょう。
FUJI VILLAGE
移住してきて地元チームに貢献できるのは最高です
ふる里のけむり 川上陽子さん
鳴沢村にある『ふる里のけむり』は東京から移住してきた川上泰司さん・陽子さんご夫婦が始めた定食屋です。朝7時から営業しボリューム満点の食事を提供しています。採れたて新鮮野菜を使った料理が大評判。特におすすめなのは辛口カツカレーです。
川上陽子さん・泰司さん(中央)、広報担当看板犬・お里 流石輝美さん(左)、小佐野敬子さん(右)
「この辺りから見る富士山は格別です。以前から富士山が大好きで、夫婦で釣りをするために、西湖に通っていたのですが、結局、移住してしまいました」
『ふる里のけむり』は、土日のランチタイムに予約が必要な人気店ですが、スタート時は困難に直面していました。川上さんが、鳴沢村に移住したのは3年前の2020年。待望の移住を実現したものの、新型コロナウィルス感染症の脅威が拡大したのです。「この先どうなるのだろう」という不安の最中に助けてくれたのがFCふじざくら山梨。まとまった数のお弁当を注文してくれました。
きっかけは2021年にFUJI VILLAGEで開催されたスポーツフェスでした。このイベントに、陸上競技の桐生祥秀選手とFCふじざくら山梨が参加していたのです。状況好転のキッカケが欲しかった川上さん夫妻は、地域の皆さんとの接点を創ろうと考えて出店。それから、選手の皆さんが『ふる里のけむり』に来店してくださるようになりました。
山梨県女子サッカーリーグから関東女子サッカーリーグリーグ、そして、なでしこリーグ2部へ昇格するにつれて、FCふじざくら山梨はテレビや新聞で取り上げられることが増え、急速に知名度が上がっています。そのおかげで、『ふる里のけむり』はFCふじざくら山梨にお弁当を届けている定食屋として評判になり、次第にお客さんが増えていきました。
「お店の中でFCふじざくら山梨の話になることが増えましたね。選手が出演した番組の話題で、お客さん同士の話が盛り上がることもあります」
土日のランチタイムが忙しいので、なかなか試合を見に行かれないのが悩みの種です。いつかスタンドから応援するのを楽しみに、今週もお弁当を届けます。
「皆さん、サラダが好きなので、野菜を多めにしたメニューでお届けしています。できるだけ、自前の畑で収穫した新鮮な野菜を使ってお弁当にしています」
コロナ禍に不安なスタートを切った陽子さんにとって、FCふじざくら山梨は心強い存在です。そして、応援にやりがいを感じています。
「地元チームに貢献できるのは最高ですね。東京にいたら、ここまでスポーツに関わることはなかったと思います。私たちは応援しているのですが、逆に元気をたくさんもらっています。これからが、さらに楽しみです」
鳴沢村での暮らし続けているうちに、いつの間にか、陽子さんさんは全く東京が恋しくなくなりました。今、ご夫婦の地元は鳴沢村です。これからも地元クラブをずっと応援していくことになりそうです。
クラブ立ち上げ直後からお節介な親心みたいに応援
船津保育所 主任保育教諭 中村恵子さん
富士河口湖町には河口湖、西湖、精進湖、本栖湖があり多くの観光客が訪れます。そんな富士河口湖町にある船津保育所は220人以上のお子さんを預かる地域最大規模の保育所です。観光産業をはじめとする共働き家庭に、こうした保育所の存在は欠かせません。
船津保育所 主任保育教諭 中村恵子さん
船津保育所で働く中村恵子さんは、ご自分のお子さんがサッカーを始めたことがきっかけでサッカーを始めました。最初は親子で一緒にボールを蹴っていたのですが「親子でやっていても、なかなか自分が上手くならない」と思い、女子サッカーチームに所属することにしました。
人工芝の緑が鮮やかな船津保育所の園庭にはミニサッカーのゴールが置いてありす。「ボールを蹴る子が多いですよ」と中村さんが笑います。船津保育所ではFCふじざくら山梨の選手によるサッカー教室が行われています。中村さんの発案から始まりました。サッカーの話をするときの中村さんは楽しそうです。
船津保育所で行ったサッカー教室
中村さんが初めてFCふじざくら山梨の選手と会ったのはチーム立ち上げ直後の2019年4月21日にFUJI VILLAGEで開催された「FCふじざくらチームお披露目イベント」でした。チームメイトと一緒に見に行った中村さんは、FCふじざくら山梨のメンバーが揃わず、イベントに登場した所属選手が10人しかいないことに気がつきました。
「選手が身近な感じで可愛かったです。あのとき、ゴールキーパーがいなかったよね(笑)。大丈夫?って感じでした」
公式戦が始まると、すぐに試合を見に行きました。
「『私たちとはサッカーの種類が違う』と思いました。男の人と同じようなサッカーだと思いました。私たちがプレーしているのは、足元にパスしてもボールがどこに行くのかわからないサッカーだから、洗練されたプレーを新鮮に感じました。自分の娘くらいの年齢の選手が懸命に走っているので応援したくなりました。お節介な親心みたいな応援です(笑)」
あれから4年が経ちました。FCふじざくら山梨の選手たちは「競技でも一流、社会でも一流であれ」をモットーに地域で活動しています。
「ただ、サッカーをしているだけではなく、地域に根付いた活動をしていることが自然と目に入ってくるから、サッカー以外のところからチームに興味を持った人も多いかもしれませんね」
中村さんは、最後の1ミリを競って脚を伸ばしギリギリまで頑張る選手の姿を応援し続けたいと思っています。船津保育園のサッカー教室も、ずっと続けていきたいと希望しています。
「選手とファンの双方向の関係」ではなく「3Dの関係」ですね
株式会社山梨さえき 取締役 桑原孝太さん、商品開発部 アシスタントバイヤー 宮下秋穂さん
「創設5年目でなでしこリーグ2部に昇格ですから早いですよね」
富士吉田市で創業した株式会社山梨さえきの取締役で商品開発部部長の桑原孝太さんは、和やかな雰囲気で話しはじめました。「美と健康を届けること」を目的に「セルバ」「おかじま」2つのスーパーマーケットチェーンを展開する株式会社山梨さえきはオフィシャルウェアパートナーとして、FCふじざくら山梨をサポートしています。
「スポンサーとして露出を狙っているわけではありません。FCふじざくら山梨に吸い寄せられていきました(笑)。地域の皆さんも同じなんじゃないかな」
『セルバ・おかじま×FCふじざくら山梨コラボ弁当』も、そんな活動の一つ。第10弾となる「もち麦入り彩り野菜のロコモコ」はアスリートフードマイスターの資格を持つ田中里穂選手の提案から商品化を実現しました。もち麦はユニフォームパートナーでもある株式会社はくばくの商品を使用しています。
試作にも参加した田中里穂選手 写真提供:FCふじざくら山梨
商品開発部 アシスタントバイヤーの宮下秋穂さんは管理栄養士の資格保持者。選手の発案を食の専門家の立場から支え、確実に売れる商品に仕上げています。FCふじざくら山梨と関わるまでは、サッカーに、あまり関心がありませんでしたが、専門知識を活かしコラボ弁当のプロジェクトを担当することになり、次第に試合会場に足を運ぶことが増えていきました。
「アスリート視点のアイデアに、お客様が好まれるヘルシー嗜好も加え、幅広いお客様に愛されるお弁当になりました。選手と一緒に試作して、できるだけ選手の想いを実現できるように工夫しています」
力を合わせて商品を開発し、売り場で声を掛け合い、選手との親近感が増していきました。最近では、スタンドから選手を応援するだけで泣きそうになることもあるそうです。
株式会社山梨さえき 取締役 桑原孝太さん(右)、商品開発部 アシスタントバイヤー 宮下秋穂さん(左)
「FCふじざくら山梨がハブ(中核)になって、この地域が上手く循環しはじめたような気がします。FCふじざくら山梨と地域の人たちは『選手とファンの双方向の関係』ではなく『3Dの関係』ですね。それが良いところです」
そう表現する桑原さんの言葉通り、以前からこの地域で暮らす人々、活動してきた企業・団体が有機的につながることで、新しい取り組みが生まれてきています。宮下さんが担当した『セルバ・おかじま×FCふじざくら山梨コラボ弁当』は、売り場に陳列すると夕方には完売してしまいます。累計45,000食以上も販売しているので、お弁当からFCふじざくら山梨を知った人もたくさんいそうです。
桑原さんは「こんな街イヤや」と大学卒業後に東京へ。地元に戻って「この街イイやん」と180度考え方が変わったと言います。もしかすると、今、この街が楽しい理由の一つは、毎日、FCふじざくら山梨と一緒に地域で暮らす人々のことを考えているからかもしれません。
「チームとして、どんどんと上を目指してほしいですね。私たちも一緒に成長し、何ができるか、その掛け算を大きくしていきたいです。必ず何かを起こせると思います」
日本一の富士山の麓に春の息吹きを感じました。地域の皆さんの熱烈な応援で、新しい女子サッカークラブのカタチが生まれるかもしれません。
今回はFCふじざくら山梨のホームタウン・鳴沢村、富士河口湖町、富士吉田市の皆さんを訪ねました。
Text by 石井和裕
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