姫路市はASハリマアルビオンンのホームタウンです。高校女子サッカーの強豪校である日ノ本学園高等学校と姫路女学院高等学校、大学では姫路獨協大学の各女子サッカー部が活躍している街でもあります。姫路市では、産学官民が連携し、姫路のまちのにぎわいを創出する『女子サッカーのまち「姫路」プロジェクト』を推進しています。
姫路市の象徴は世界遺産姫路城です。白漆喰総塗籠の白壁から「白鷺城」の名で親しまれ、優雅な姿で街を見下ろしています。街を歩けば、優しく細やかな心遣いに驚きます。駅と姫路城を結ぶ広い歩道には、多種多様な木製ベンチ、テーブル、カウンターが設置されています。この道では、ただ歩くだけではなく、立ち止まることで人と人との繋がりが生まれています。
今回は、女子サッカーから、姫路市の優しさを感じてみたいと思います。まずは、選手を雇用する企業の上司、同僚をご紹介しましょう。
大手前通りから見た世界遺産姫路城
選手も元選手も長く働ける職場
アイベステクノ株式会社の皆さん
アイベステクノ株式会社は従業員の半分以上がエンジニア。2021年8月に姫路工場を増設拡張しました。瀬戸内海が見えるテラス付きのカフェテラスに、社長、専務、そして従業員が集まってくださりました。和やかに始まるインタビュー。アイベステクノ株式会社には新堀華波選手と吉田紫穂選手、川野愛華選手、そして元選手が勤務しています。
左から、専務取締役 天野道廣さん、代表取締役 梅田晶久さん
代表取締役の梅田晶久さんは、コミュニケーションを大切にしています。社内にコミュニティを創り、会話を増やし、職場に明るい雰囲気を生み出しています。
大学まで体育会系クラブに所属しながら万年補欠だった梅田さん。モチベーションを高めるため、出場や得点に応じたボーナス制度を社員選手の給与に導入しています。社員選手への希望は優勝争いに絡んでほしいということです。
「もうちょっと上の順位を続けてくれると、社内の朝礼で話題にしやすいです(笑)」
専務取締役の天野道廣さんは、社員選手の存在が営業面でもプラスになるといいます。
「仕入れ先やお客様が新築した工場にご来社いただくことがあります。玄関にユニフォームを飾ってあるので『これは何ですか?』と質問されることも多いです。社員選手の紹介をするのが一連の営業トークになっています」
左から、新濱麻衣さん、三股由佳さん、吉田紫穂選手、岩本麻希さん、米田麻里奈さん
社員選手の仕事ぶりはどうなのでしょう?気になったので同僚や上司に聞いてみました。
「遅刻もせず働いています。雨の日でも練習があるので大変だと思います。でも、毎日、頑張ってくれています」米田麻里奈さん
「限られた時間内に、しっかりと働いてくれるので助かっています」岩本麻希さん
どうやら、ASハリマアルビオンのプレースタイルに通じるキビキビとした働きが社内で評判のようです。そして、怪我と隣り合わせのプレーに心配も。
「怪我をしないように頑張ってほしいです。一人暮らしの家事も大変。8時から勤務し練習が終わると20時くらいになりますが、ずっと続けていることを見て尊敬しています」新濱麻衣さん
「テレビに映るような選手と一緒に働くことを誇りに思います。さらに活躍して優勝を狙ってほしいです。ASハリマアルビオンの名前を売り込んでもらえるとアイベステクノ株式会社の名前も広がると思います」三股由佳さん
今回のインタビューに参加した従業員の中に、元選手がいます。長澤優芽さんです。2021年8月にASハリマアルビオンを退団。現在もアイベステクノ株式会社の企業内保育施設・アイランド保育園で保育士として働いています。
「社内で社員選手と会うことはありませんが、仕事後に社宅で会うことがあります。一緒に食事に行くこともあります。私がASハリマアルビオンでプレーしていたときと、接し方に違いはないですね。選手は、今でも変わらず私と近い存在なので、なでしこリーグで頑張ってほしいです」
長澤優芽さん (※撮影時にマスクを取りました。)
アイベステクノ株式会社は「トップレベルでプレーできるならば、いつまでも続けてほしい」という気持ちで社員選手を応援しています。優秀な人材は企業の宝。長澤さんは8月に、ASハリマアルビオンを退団しましたが、以前と変わらず勤務を続け、子ども達に人気の保育士として活躍しています。
長澤さんは、現在、日本女子フットサルリーグに参加しているSWHレディース西宮 Futsal Clubで日本女子代表を目指して奮闘しています。
女子がスポーツを牽引する街
姫路市スポーツ振興室室長 本庄哲郎さん
姫路市には3つの大きなスポーツクラブがあります。ASハリマアルビオンとヴィクトリーナ姫路(Vリーグ女子)そして、姫路イーグレッツが2022―23シーズンよりWリーグに参入します。姫路市は、「灘のけんか祭り」をはじめ伝統的行事(まつり)が多く、昔から「勇壮な男性」のイメージが強かった街ですが、スポーツにおいては3つの女子チームが地域をリードしています。
「実は、女性が強い地域なのかも分かりません(笑)」
と、姫路市スポーツ振興室室長の本庄哲郎さん。
「ASハリマアルビオンには子どもたちと関わりを今まで以上に多く持ってほしいです。姫路市民に『サッカーは楽しいですよ』『スポーツは楽しいですよ』というプレーを見せてほしいです」
2021年6月13日に姫路市も参加する『女子サッカーのまち「姫路」プロジェクト』実行委員会が『女子サッカーのまち「姫路」プロジェクト あつまれ~!ひめじサッカーキッズ』を開催しました。そこでは、本並健二・丸山桂里奈夫妻をゲストコーチとして招き、子どもたちに熱心にご指導をいただきました。子どもたちは、ASハリマアルビオンのホームスタジアムである姫路市ウインク陸上競技場の芝生のピッチを元気に駆け回っていました。今回、集まった子どもたちが、将来、ASハリマアルビオンでプレーをしてくれることを期待します。
まずは「さらに強くなって地元チームの存在感を示してほしいです」と本庄さんは言います。
姫路市スポーツ振興室 室長 本庄哲郎さん
地域で盛り上げる姫路市が兵庫県のモデルケースになる
一般社団法人兵庫県サッカー協会 会長 三木谷研一さん
一般社団法人 姫路サッカー協会 代表理事 会長 津田隆雄さん
『女子サッカーのまち「姫路」プロジェクト』実行委員会は姫路市、一般社団法人姫路サッカー協会、ASハリマアルビオン、姫路獨協大学、日ノ本学園高等学校、姫路女学院高等学校、姫路商工会議所、一般財団法人姫路市まちづくり振興機構で構成されています。ASハリマアルビオンと共に「女子サッカーのまち「姫路」プロジェクト あつまれ~!ひめじサッカーキッズ」実現のために尽力された一般社団法人 姫路サッカー協会 代表理事 会長の津田隆雄さんは「姫路市には地域で盛り上げる気風がある。商工会議所も結束力が高い」と言います。
「強豪チームか立派な施設がないと、上手な子は、みんな神戸や大阪へ行ってしまうから兵庫県内各地のチームは弱いんですよ。地元のチームに求心力があれば、地域のサッカーはもっと盛んになると思います」
幸い、姫路市内には女子の強豪チームがあり、多くの選手が高校(日ノ本学園高等学校、姫路女学院高等学校)、大学(姫路獨協大学)を姫路市でプレーします。そして、その先は社会人。ASハリマアルビオンが受け皿です。
左から、一般社団法人 姫路サッカー協会 代表理事 会長 津田隆雄さん、一般社団法人兵庫県サッカー協会 会長 三木谷研一さん (※撮影時にマスクを取りました。)
「このまま進めていただいき、ASハリマアルビオンに強いチームになっていただいて、神戸市以外の良いモデルとなってほしいです。兵庫県サッカー協会としてもバックアップしていきたいです」
そう話すのは一般社団法人兵庫県サッカー協会 会長の三木谷研一さん。「企業が集まって御輿(ASハリマアルビオン)を担ぐというのは、姫路市の土地柄からかな」と姫路市の印象を教えてくださりました。兵庫県は南の淡路島から日本海側の豊岡市まで広く、中小の自治体が多く存在します。大都市・神戸市以外でのサッカーの普及・振興モデルとして姫路市の女子サッカーは大きな期待を集めます。
そして、ASハリマアルビオンは、三木谷さんが副会長を務めるヴィッセル神戸とのコラボレーションも決定しました。姫路市内の子どもたちに、ヴィッセル神戸の指導者とASハリマアルビオンの選手たちが巡回し、一緒にサッカー教室を行うのです。
さて、三木谷さん、なぜ、姫路市では女子サッカーの新しい挑戦に道が開けるのでしょうか。
「姫路市の名前自体がね......『姫』路だからですかね(笑)」
今回はASハリマアルビオンのホームタウン・兵庫県姫路市の皆さんを訪ねました。
Text by 石井和裕