連載コラム

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2022年04月01日

未来へ走るなでしこリーガー 第2回 大竹 麻友(スフィーダ世田谷FC・FW)

1989年、JLSL(日本女子サッカーリーグ)は女子サッカーの国内トップリーグとしてスタートし、「L・リーグ」、そして2004年から「なでしこリーグ」と名称を変えて歴史を刻んできた。名称やクラブ数が変わっても、変わらなかったものもある。高い競技力と、どんな時もサッカーを続けようと努力するひたむきさだ。「なでしこ」に込められた原点ともいえるその魅力を改めて探る連載、「未来へ走るなでしこリーガー」第2回は、昨シーズン、敢闘賞とベストイレブンを受賞。東京・世田谷区をホームタウンとする「スフィーダ世田谷FC」で、メインスポンサーの「サミット株式会社」で働くFW・大竹麻友(25)に聞いた。(連載担当・スポーツライター増島みどり・文中敬称略)

NL21089_d102.jpg(プレナスなでしこリーグ2021表彰式で敢闘賞を受賞した大竹)

ーFWというポジションと、もうひとつ、大切な'ポジション'を探すシーズンにー昨季敢闘賞の大竹麻友

「スフィーダ世田谷FC」(神川明彦監督)を訪ねた3月中旬、夕方の気温は9度だった。Jリーグなどの取材に慣れてしまっているせいか、練習場の照明が少し暗く感じる。
トレーニングを見ながら、寒さと暗さが何だか懐かしかった。かつての女子リーグでは、ほとんどのクラブが夜、冬でも遅い時間に練習を行っていた。選手たちが仕事とサッカーを両立していたため、夕方、終業してからでなければ全員が集合できないから。
強さを誇った「読売ベレーザ」(現、日テレ・東京ヴェルディベレーザ)もそうだった。華やかな男子のトップチームが練習を終えると、冷え込むピッチ、クラブハウスに今度は彼女たちがやって来る。弾むような笑い声が、「なでしこの時間」を告げる合図でもあった。
現在は、スポンサーや職場の支援で、なでしこリーグでも昼間にトレーニングできるクラブは多いという。

スフィーダの選手たちは学生を除けば皆、サッカーと仕事を両立しており、複数の選手が、メインスポンサーとして、公式戦ユニホームの胸にロゴを提供するスーパー「サミット」に在籍。関連企業で仕事をする選手もいる。一般企業で就業時間通りの勤務を終え、電車を乗り継ぎ、自転車を走らせ、グラウンドに駆け込む選手もいた。
仕事という「根っこ」を張る、なでしこリーガーたちのサッカーには、プロとは違う魅力がある。

練習中、神川監督の声や御互いへの指示に混じって、「ありがとう!」と言い合うのがよく聞こえる。
そういうアットホームなチームで、大竹は昨季、チーム最多、リーグ2位となる14点を獲得。「チームに必要とされ、そこで貢献する選手になりたい」と話す。どこか控えめで、とても静かな口調で。

昨季、リーグ得点ランキング2位の大竹 メンタル面にまだ課題

ー昨年はベストイレブンに敢闘賞と活躍されました。

 大竹 でも伊賀(伊賀FCくノ一三重)に勝ち点で12も開けられてしまい2位でしたから、私自身、もっとチームに貢献するプレーやゴールを決めなくてはならなかった、と反省する気持ちが強いです。トップの伊賀に勝とうとしても、自分たちよりも順位が下のチームに取りこぼしたり・・・特に前半は、自分自身に物足りない面が多くありました。

ー得点ランキングのトップ19点(西川明花=伊賀)に5点開けられましたが、14得点の評価は?

 大竹 私には、チームの誰よりも得点のチャンスが与えられていたとすると、それを活かし切れていませんよね。決定力が低いんじゃないかって、反省しています。

ー反省が先なんですね。でも、なでしこリーグのデータでは、シュート決定率は30・4%でトップ(シュート46本で14点)。いい数字です。

 大竹 メンタル面に課題が多いと自覚しています。攻撃でプレッシャーに負けてしまったり、自分の弱さが出てしまったり、最後まで強い気持ちでシュートまで行かないと。今シーズンは、メンタルでの強さを出せるようにしたいと思います。

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他人からの評価と自己評価のギャップ

熊本の「益城ルネサンス熊本FC」に小4から加入し、熊本市立城西中のサッカー部と両方でプレーをするなど、地元では注目を浴びていた。12年には、高校女子サッカーの強豪、日ノ本学園高校に入学し、高校総体3連覇など知名度は全国区に。帝京平成大に進学し、ユニバーシアード(17年、台北)代表として準優勝にも貢献した。
大竹はそれでも「サッカー選手としての自信は持てなかった」と話す。大学卒業時に、強豪クラブでのプレーを考えたことはあった。実際に、WEリーグにも加盟したチームから勧誘の声がかかったが、クラブはほかの選手との交渉も同時進行していたのだろう。加入の最終的な返事は、待つように言われた。
世田谷は反対の姿勢でオファーした。「どうしてもうちでプレーをして欲しい」と、川邊健一当時監督らが熱心に加入を希望してくれた。働きながらサッカーをする。必要とされる場所で貢献する。それを自ら選んだ。19年から加入し、20年にはチームが2部で優勝、自身もMVPを獲得した。

ー素晴らしいキャリアなのに、自信が持てなかった、と言うのはなぜですか。

 大竹 あるクラブから、「加入できるかどうか、最終的な返事は待って欲しい」と言われた時、私は「どうしても来てほしい」と思われるような選手ではないんだな、と自分を冷静に評価しました。そんな時に、世田谷が声をかけて下さって、自分を本当に必要としてくれる場所で全力を尽くし、チームに貢献したい、強くしたいと心から思えたんです。

ープロとか、代表を狙うのではなくて?

 大竹 自分には、そういう気持ちが足りないのかもしれません。でも、世田谷で、自分が必要だとされる場所で、どこまでそれに応えられるかに、今はチャレンジしたいです。

ーFWであると同時に、自分が必要とされるポジションで、力を出すのが目標なんですね。

仕事とサッカーの両立

ーサミットでの今の仕事は?

 大竹 今年からサミット本社の人事で、保険業務の担当をしています。仕事は10時から15時までと配慮をして頂いています。最初の頃は、パンを焼いたり、店頭で販売を担当しました。

ー失敗談は?

 大竹 あります。当時は、朝8時から午後4時まで仕事をしていて、一度、ピザを焼いた後、仕上げの時間を間違えて大失敗し、真っ黒に・・お店の先輩であるおばさんたちに、あーぁ、こんなに真っ黒こげにしちゃってぇ、と叱られました。

ー仕事との両立は大変では?

 大竹 店頭では、試合を観て下さっている方々から、応援しています、とか、ゴール良かった、といつも声をかけて頂いて、それは本当に嬉しかった。むしろ励みです。

ー今季の目標は?

 大竹 私は何か大きなことを口にするのが苦手ですみません。でもひとつだけ。去年の自分は越えたいと思っています。

大竹 麻友 プロフィール
1997年1月30日生まれ 熊本県出身 ポジションFW
帝京平成大学女子サッカー部→2019年よりスフィーダ世田谷FC所属
リーグ戦初出場:2019年3月21日 22歳50日
受賞歴:
2021プレナスなでしこリーグ1部 敢闘賞/ベストイレブン
2020プレナスなでしこリーグ2部 最優秀選手賞

写真提供=©J.LEAGUE(上)スフィーダ世田谷FC(下)
スフィーダ世田谷FCチームURL=http://www.nadeshikoleague.jp/club/s_setagaya/

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