連載コラム

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2022年06月22日

未来へ走るなでしこリーガー 第6回 守屋 栞奈(アンジュヴィオレ広島・MF)

1989年、JLSL(日本女子サッカーリーグ)は女子サッカーの国内トップリーグとしてスタートし、「L・リーグ」、そして2004年から「なでしこリーグ」と名称を変えて歴史を刻んできた。原点ともいえる高い競技力や、仕事、家庭を両立しながらサッカーを続けるひたむきさを探る連載「未来へ走るなでしこリーガー」第6回は、今季、韓国の女子リーグWKリーグの「昌寧(チャンニョン)WFC」から移籍加入したMF・守屋栞奈(もりや・かんな、23=アンジュヴィオレ広島)に、海外でプレーをして改めて発見したなでしこリーグの魅力や、自身のこれからの夢、そして大好きなアイドルについても聞いた。

(連載担当・スポーツライター増島みどり・敬称略)

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ーサッカーボールが叶える憧れー

守屋「韓国では本当に辛いシーズンでした。去年の夏には、セルビアに移籍すると決まったんですが、コロナの影響で渡航ができなくなってしまって・・・」

筆者「セルビア、ですか?首都のベオグラードにはいくつかクラブがありますが、その女子クラブに移籍されると?」

守屋「あ、ベオグラードじゃなくって、えーっと、どこだったっけ。もう少し地方の方だったかもしれません・・・」

筆者「かもしれませんって・・・知らない国に行くのに、チャレンジャーというか、無謀というか・・・」

守屋のインタビューには、アンジュ広島の宮地広報、なでしこリーグの広報も参加し4人で順調に取材が進んでいた。ところが、昨年、初の海外クラブとして所属した韓国の「昌寧WFC」を退団し、広島に移籍するまでの経緯を聞いている最中、セルビア移籍の話で、参加者4人の顔と声がフリーズしてしまった。電波の調子が悪くZoom画面が固まったのではなくて。

移籍先のクラブの名前や場所はセルビア語だから難しいのだと想像はできる。クラブも都市も思い出せず困っている表情の守屋と、その大らかさにかなり驚いて、顔が固まってしまった3人。宮地広報がユーモアでフリーズを解いてくれた。

「えーっと、今いるクラブは分かっていますかぁ?」

守屋は屈託なく、画面の中でもまぶしいくらいの笑顔で言った。

「はい、大丈夫です、分かってます!」

3人も大笑いした。

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(韓国 昌寧WFC所属時代の守屋)

神奈川県出身で、開志学園(新潟)を卒業し、女子サッカーの名門「岡山湯郷Belle」(現在なでしこリーグ2部)へ加入。4年間同クラブで活躍を続け、21年2月、韓国女子サッカートップリーグWKリーグで慶南に拠点を置く「昌寧WFC」へ移籍した。

湯郷で主将を務め、FWとして日本女子代表「なでしこジャパン」でも活躍した木龍七瀬(32)が同クラブに移籍していた縁もあって、「子どもの頃からずっと憧れていた」という海外クラブへ初めての移籍を果たす。

高い競技レベルを目指すのはもちろん、韓国でもセルビアでも、海外でサッカーをしたいと願い続けた特別な理由がある。

出身の神奈川・平塚に拠点を置く「SFCジュニオール」で本格的にサッカーを始める。中学1年の時、日本人で初めてドイツでプレーをした奥寺康彦氏も在籍した「ヴェルダー・ブレーメン」の町で誕生した「ワンネーションカップ」に出場した。ブレーメンの選手、関係者が設立した子どもたちのための国際大会で、いくつかのクラブから湘南ベルマーレのジュニアチームとしてサポートを受けて参加。アメリカ、オランダ、ドイツと参加したこの大会で、たとえ言葉が通じなくても、文化が違っていても、友達が作れる不思議な魅力を味わったという。

サッカーボールひとつあれば、それが可能になるんだ、と。

「言葉は通じないんですけれど、分かり合える。サッカーにはそういう魅力があるんだと知り、いつか海外でプレーをしてみたいと憧れるようになりました」

ヨーロッパの有名クラブや強豪ではなく、知られていないセルビアの小さなクラブであっても「もし自分を必要としてくれるのなら、行ってみよう!」と、スパイクをスーツケースに詰めて飛び込んでいく、逞しさや大らかさの源である。

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ー韓国からアンジュへ サッカーの違いー

その夢が最初に叶った韓国では、スピードや、対人での強さをベースにするフィジカルサッカーに戸惑いながらも懸命にプレーをした。しかしリーグ戦21試合中出場はわずか7試合に終わる。日韓の関係が冷え込んでいる難しい時期でもあった。日本人の自分と仲良く接してくれた友人たちが、「なぜ、日本人と仲良くするのか?」と責められているのを聞いた。

退団が決まり、もっと実力を付けたい、日本代表を目指したい、と、友人たちのサポートを頼って広島移籍のチャンスを手にした。セルビアも広島も、守屋にはきっと同じサッカー地図に描かれたクラブなのだろう。

現在は、午前中にトレーニングを行い、午後からはクラブを支援してくれる車の部品製造をする「ワイテック」に出社し、事務に携わる。

韓国では個人のアピールが重要だったが、なでしこに戻って、守備の細かい連携、互いを活かそうとする組織力を再認識した。また、各クラブが特徴を強く打ち出しているサッカーのスタイルや、フェアプレーも、韓国の経験を経たからこそ、改めて感じられると話す。

「サイドバックとして、守備はもちろん、攻撃参加をもっと積極的にし、ゴールやアシストに絡んで頑張りたい」と、現在勝ち点7で11位と低迷する戦績(※)に、悔しそうに唇を噛んだ。

ー憧れる力をバネにー

「モーニング娘。」に憧れ、サッカーで辛い時に、彼女たちが厳しいレッスンに臨む様子が描かれた動画を見て自分を励ます。韓国にいた頃は、毎日「彼女たちも辛いなかで頑張っているんだ」と映像を見て、好きな曲を聞いた。湘南では、すでに引退していた中田英寿が、エキシビジョンマッチにもかかわらずスタジアムを満員にした存在感、その時のスタジアムの雰囲気は今でも忘れられない。湯郷では一緒にプレーはできなかったが、宮間あや、福元美穂といった女子のレジェンドを遠くから見ていただけなのに、感じたオーラに引きつけられた。

守屋の話を聞きながら、誰かに、何かに、憧れ続ける力の存在を思った。普通は、とっくに忘れてしまっていることにさえ気が付かないから。

高校卒業後、湯郷に加入しサッカー選手として歩き始めて6年になる。

「選手として居場所を与えてもらった責任感、職場やアンジュのサポーターに恩返ししたい気持ちはとても強い」

11位(※)からの巻き返しを誓う。

※取材日時点での戦績

守屋栞奈 プロフィール
1998年9月14日生まれ 神奈川県出身 ポジションMF
JAPANサッカーカレッジレディース→岡山湯郷Belle→昌寧WFC(韓国WKリーグ)→2022年よりアンジュヴィオレ広島所属
リーグ戦初出場:2015年6月7日 16歳266日

写真提供=(上)J.LEAGUE/(中・下)アンジュヴィオレ広島
アンジュヴィオレ広島チームURL=http://www.nadeshikoleague.jp/club/ange/

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