1989年、JLSL(日本女子サッカーリーグ)は女子サッカーの国内トップリーグとしてスタートし、「L・リーグ」、そして2004年から「なでしこリーグ」と名称を変えて歴史を刻んできた。なでしこの原点ともいえる高い競技力や、仕事、家庭、学業を両立しながらサッカーを続けるひたむきさを探る「未来へ走るなでしこリーガー」第7回は、高校生が初登場。昨年のリーグベスト11にも選出されるなど、伸び盛りの小山史乃観(17=セレッソ大阪堺レディース)に、なでしこリーグから世界を目指し、学校、練習、試合をボールと共に駆け回る、充実した毎日について聞く。
(連載担当・スポーツライター増島みどり)敬称略
ー'史乃観ノート'で自分を磨いて、飛躍のきっかっけにー
高校の授業が終わると、下校する友人たちと別れて、C大阪堺の練習場へ約1時間かけて向かう。練習が終わるとまた1時間ほどかけて帰宅。自宅、学校、練習場の「サッカー・トライアングル」を慌ただしくめぐる生活にも、小山は「大変なんて考えたことがないです!サッカー中心の生活過ぎて、サッカーがなかったら困ります」と、笑顔でうなずいた。
未来へ走る17歳に、「毎日疲れないですか?」とか、「トップレベルのクラブでサッカーを続けるのが辛くなったりしませんか?」なんて、ネガティブな質問をする自分が恥ずかしくなるほどのパワーが、Zoomの画面からもみなぎっている。
同クラブは昨年、初のプロ「WEリーグ」が発足するのに伴い、多くの選手が一気に移籍しチーム編成も高校生が中心に。平均年齢が18歳前後という若いチームながら、竹花友也監督のもと、縦に大胆な攻撃を展開するなど思い切ったプレーを浸透させて10勝8分4敗で3位と大健闘した。
そうしたチームを象徴する存在でもある小山は、昨年9点を獲得し、最年少で「ベストイレブン」を獲得。表彰式ではただ一人、高校の制服で壇上に並んで撮影される初々しい姿が印象的だった。チームメートだけではなく、ライバルチームからも「是非プレーを見て欲しい」と称賛されるテクニカルなプレーに、今季も注目と期待が集まっている。
無敵に見える17歳も昨夏には、初めてスランプを経験したという。ゴールは決まらない。自分らしい思い切りのいいプレーができない。そう思うと、チームメートにも迷惑をかけている気持ちを抱いてプレーに影響してしまう。「自分が何もできていないのが悲しくて、シュートを外して試合後よく泣いていた」と、振り返る。そんな時、強化担当の高橋大輔(現C大阪コーチ)が声をかけた。
「もっと自分に矢印を向けてプレーをしなきゃ。ほかの人に迷惑をかけるとかじゃなくて、自分のプレーを見つめ直そう」
自分に矢印を向ける、つまり自分のプレーに集中すると、特にメンタル面での弱さが課題に思えたという。そこから、毎日サッカーの出来事を箇条書きにし、大学ノートに書き留めるのを日課にした。ミスや自分のプレーにだけ一喜一憂するのではなく、周囲への気配りや、ミスを引きずらないために、気持ちの切り替えが自然と身についていく。
自主練習にも時間を費やし、目標が明確になった。もともと持っていたはずのサッカーへの感性も、ノートに書き留めるなかでさらに磨かれたのかもしれない。
ーなでしこジャパンがW杯で優勝し、そのメンバーの一員になる夢ー
2011年、「なでしこジャパン」がW杯ドイツ大会で優勝した際、まだサッカーで目標を抱く年齢ではなかったが、それでも「皆さんがキラッキラしていて、まぶしかったなぁって覚えています」と笑う。今、自分が代表メンバーとして2度目の優勝に加わる夢を描いている。
・なでしこジャパンに入る
・最高のサイドバックを目指す
・攻撃でも守備でも万能なプレーをする
17歳の目標はぼんやりしたものではない。映像をよく見て、色々な選手のプレーを分析し、見習おうと引き寄せる。例えば日本代表でW杯カタール大会出場を狙う三笘薫のドリブルのコース取りや切り替えしも取り入れたい。
外国人選手では、「ベルギーのデ・ブライネのプレーがとても勉強になります」と、ケビン・デ・ブライネ(ベルギー)の名前をあげた。18年のロシアW杯でベスト8をかけたベルギー戦も、日本代表を仕留めたあの超高速でのドリブルも、小山はもちろん観ている。
「デ・ブライネとは・・・ロストフの14秒は知っていますか」
と、またもやこちらの衝撃の体験を元にネガティブな質問を投げかけてしまった。しかし17歳は「はい」とうなずき、「ゴールを考えた予測力、ポジショニングは本当に凄いと思います」と、冷静に分析した。
三笘にデ・ブライネと、持ち味を全て備えたら、サポーターにも「シノカン」と愛される圧倒的な個性が、どこまで伸びるのかワクワクする。あるクラブ関係者も、「森島(寛晃)社長も彼女のプレーに注目している」と、クラブのレジェンド「モリシ」の期待値の高さを教えてくれた。
描く将来と同じように、自分の選手像も明確に持っている。
・色々なプレーができるよう、戦術理解度の高い選手になる
・技術を常に追求できる選手になる
・試合を決められる選手になる
8月には「U―20女子W杯コスタリカ大会」が行われるため、代表を目指すキャンプにも呼ばれている。日本と同じAグループにはガーナ、アメリカ、オランダと強豪が集まるが、小山は「アメリカとやれるのが楽しみ。自分がこれから世界とやっていけるかを知ることができそうなんで」
コロナ禍で、2020年から延期された大会だけに楽しみだ。(※FIFA U-20女子ワールドカップコスタリカ2022代表メンバーに選出・7月12日発表)
学校、練習、試合の合間の忙しい時間に取材も入れてしまったこの日、大学でサッカーをしている兄と、近くの公園で「1対1」で激突してきたと嬉しそうに話す。
「1対1で、靴下が破れてしまいました!以前は、兄に負けても泣いていたんです」
「キラッキラ」まぶしく輝いているのは、画面の中のなでしこではなくて、きっと小山自身なのだ。
小山史乃観 プロフィール
2005年1月31日生まれ 大阪府出身 ポジションDF
セレッソ大阪堺ガールズ→2019年よりセレッソ大阪堺レディース所属
リーグ戦初出場:2018年4月15日 13歳74日
受賞歴:
2021プレナスなでしこリーグ1部 ベストイレブン
代表選出歴:
U-16 日本女子代表
U-17 日本女子代表
写真提供=J.LEAGUE(上・中)/なでしこリーグ(下)
セレッソ大阪堺レディースチームURL=http://www.nadeshikoleague.jp/club/c_osaka_sakai/