1989年、JLSL(日本女子サッカーリーグ)は女子サッカーの国内トップリーグとしてスタートし、「L・リーグ」、2004年から「なでしこリーグ」と名称を変えて歴史を刻んできた。フルタイムで仕事に就く選手、家庭を持つ選手、大学生や高校生としてプレーをする学生たち、それぞれがプロとは違う形でサッカーと向き合い、道を切り開いたリーグでもある。「未来へ走るなでしこリーガー」第9回は、大学生主体のチームを取材。「日体大SMG横浜」で、夏季中断前までの全15試合、1305分に出場する頼もしいルーキー、朝倉加奈子(19)は、学業との両立で忙しくも充実した毎日を走っている。
(連載担当・スポーツライター増島みどり・文中敬称略)
ー最高級のスポンジのような吸収力を最大の持ち味に ルーキーイヤーに挑むー
ーサッカー、ストレッチ、バレーボールの授業から練習へ走る1週間ー
将来、「教職も取ってみたい」と、単位をしっかり取得する文武両道のルーキー・朝倉加奈子に、授業とサッカーに走り回る毎日を先ずは聞こう。「ちょっとお待ちください・・・」と、スケジュールを確認して・・・。
月曜日 4限(16時30分終了)がなく、オフ。
火曜日 4限サッカー 本職だから楽だろう、なんてとんでもない。先生を手伝う指導役もこなして、リフティング10回をサッカー経験のない同級生たちに達成してもらわなければならない。本職の皆さんは、インステップ、インサイド、アウトサイド、もも、頭、胸それぞれでのリフティング3周分。結構ハードなメニューを終えて、19時に始まる練習に。
水曜日 4限ストレッチ 練習のためにここで「一石二鳥」ほぐしちゃえ、なんてぼんやり受けていては付いていけない難しい講義。筋肉の部位や機能も全て学んだうえで受講する。この講義で学んだお陰で、今季、ケガはしていない。手応えを感じながら、19時の練習に向かう。
木曜日 4限バレーボール いくら同じボールゲームだからといって、そう簡単にはいかない。ペアでラリーをするメニューなのに、組んだ相手とはたったの2回で終了。
あまりの下手さに見かねた教員がアドバイスをくれた。「サッカーのヘディングをイメージして。最後までボールをよく見てまっすぐ叩く!」一気にスパイクが上達した。技術以上に、スポーツを言葉で伝える「言語化」の重要性も多いに学んだ。
金曜日 練習直前の授業はないが、試合前日への準備。高いレベルでの練習の緊張感は、憧れのチームへの加入から4か月経った今も慣れない。
こんな毎日、しかも週末は遠征や試合が入る。肉体的にも厳しいスケジュールをこなす19歳は、「楽しくって仕方がないです」と軽快な笑顔を浮かべる。
第7回の 「C大阪堺レディース」の小山史乃観(U-20女子W杯コスタリカ大会代表)も、自宅と高校、セレッソでの練習を「トライアングル」でめぐる長い一日を、「きつくなんてないです。むしろサッカーがなかったら困ります!」と笑い飛ばしていた。
彼女たちは「大変だ」なんて露ほども思わず、むしろ喜々として、毎日、目の前に出現する小さなハードルを元気いっぱい跳び越えて行く。その勢いや、日々何かにチャレンジする向上心が、若くても周囲を巻き込む力になるのだろう。
夏季中断前の15試合全試合にDFとして(センターバック)出場し、出場時間は1305分。9月2日に再開する後半戦で、7位からの巻き返しを狙う大槻茂久監督の期待は、そうした力にも向けられているはずだ。1300分を超えるのはリーグでもトップクラスで、体力や調整力でもスケールの大きさを感じさせる逸材だ。
ー丁寧な言葉選びに、特別なキャリアがにじむー
高校時代有望でも大学入学後、環境の変化に伸び悩む選手は多い。
「そんな戸惑いはありませんでしたか?」
朝倉に聞く。
「レベルの高さ、スピードは全く違って大変でしたが、環境はそれほど・・・」
「ホントに?考えていたチームと違った、とか、実はセンパイが厳しいとか・・・」
「センパイには、どんなことでも優しく教えていただけます。本当に凄い方ばかりで・・・自分にとって日体大は遠い存在で、試合に出られるなんて想像できないくらいでした。そんな中で試合に出させていただけて、モチベーションはとても高いです!」
「教えていただけて」、「試合に出させていただけて」・・・朝倉が、ここまでサッカーとどう向き合ってきたか、その「根っこ」を表す言葉使いだ。
大学ルーキーは、一方でキャリアの中身において、特別豊かな経験を積み重ねてきたといえる。
鳥取県出身で、地元の名門クラブ「ウンビーゴFC」でサッカーを本格的に始める。大栄小学校を卒業し、日本サッカー協会(JFA)が主催する「JFAアカデミー堺」に合格し、中学から早くも親元を離れた。
「中学から親元を離れての寮生活でしたから色々学んだと思います。協調性とか、思いやりとか考えないといけませんから」
そんな丁寧な暮らしぶりが、言葉の端々に現れるのだろう。寮生活で堺市立月洲中学校に通い、平日はアカデミー堺でトレーニングや座学を受講。週末には当時、ユースに所属していた岡山の「湯郷belle」へ中学生が1人、高速バスで通った。
中学卒業後は大阪学芸高校女子サッカー部に入ってプレー。朝倉の話を聞きながら、良質で強い天然の海綿(スポンジ)が水を吸い込むのと同じく、全てどんどんと取り入れてしまう様子が浮かんだ。
ーいつか、なでしこジャパンに食い込める選手にー
アカデミーでのエリート教育や、湯郷Belleでの技術の習得、大阪学芸高校では高校サッカーで対応力も磨いた。10代で、これだけ多くのクラブで、違ったスタイル、異なる指導を潤沢に吸収した柔軟性は、特別な持ち味だ。
現在のDFも、実際には高校時代に一度経験しただけだったという。
「どのポジションでもできるのが重要だ、と指導を受けて来たので、MFもFWも、サイドハーフも経験しています。DFも最初は戸惑いましたが、今は楽しい」と話す。
この中断期間、DFの「コーチング」の重要さをかみしめた。味方に、もっと効果的に、声で伝え、自分だけで何とか防ごうとするのではなく、パスコースやシュートコースを限定する頭脳的なプレーも身に付けたい、コミュニケーション力もあげなければ、と、課題を次々とあげる。
「今はチームでどこまでできるか精いっぱいですが、いつかは日本代表に食い込める選手になりたいです」そういう日が来るのが今から楽しみだ。
今日は何曜日だろう?朝倉はどの授業から、グラウンドに走っているだろう?
(学校での剣道の授業にて)
朝倉加奈子 プロフィール
2003年4月3日生まれ 鳥取県出身 ポジション MF
岡山湯郷Belle U15→大阪学芸高等学校女子サッカー部→2022年より日体大SMG横浜所属
リーグ戦初出場:2019年5月18日 16歳45日
代表選出歴:
U-16 日本女子代表
写真提供=日体大SMG横浜
日体大SMG横浜チームURL:http://www.nadeshikoleague.jp/club/f_nittaidai/