連載コラム

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2022年12月28日

未来へ走るなでしこリーガー 第17回 髙橋美春(静岡SSUボニータ・GK)

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ー優勝を狙うチームで、シーズン途中からキャプテンを引き継いだ守護神ー

静岡SSUボニータが1部昇格を狙って好位置につけていた22年夏、主将が交代する異例の「人事異動」が行われた。チームを支えてきた大黒柱・藤原加奈が、WEリーグ「ノジマステラ神奈川相模原」への移籍を決断。GKの髙橋美春(31)にとって、「晴天の霹靂(へきれき)」ともいえる主将就任の打診が舞い込んだ。クラブ創成期「磐田ボニータ」時代から伊賀、名古屋、世田谷と移籍で豊かなキャリアを積んでいるベテランだが、実は主将経験は一切なかったという。しかもシーズン途中、それも優勝をかけた残り3試合というもっともプレッシャーのかかる時期にその大役を引き受けるなど、想像もしていなかった。

「(藤原選手のWEへの移籍は)友人としてもサッカー選手としても嬉しい話でしたから、頑張れ!、チームは私に任せておいて!なんて気持ち良く送り出したものの、どうすれば信頼されるキャプテンになれるのかを、私自身が分かりませんでした。優勝、昇格と目標を果たせたのは、みんなの力です」

髙橋は、マスクの下で恥かしそうに笑顔を浮かべてシーズンを振り返る。チームの勢いを削ぐまいと、「任せて」と、前向きに引き受けたが不安はあっただろう。実際に、再開からのラスト3試合は簡単ではなかった。

 主将に就任した7月、チームは首位のJFA福島アカデミーと勝ち点1差の2位につけていた。しかし藤原が7月10日の15節を最後にノジマに移籍し、2カ月の夏季中断期間を挟んでリーグ戦が再開した9月、16節では22年に昇格したばかりのV三重に1-1で引き分けてしまった。

優勝が見え始めたチーム内には、無意識のうちにプレッシャーが漂うものだ。髙橋も「優勝が見え始めてがちがちに固くなっている」とも感じていた。そこで新主将は、あえてミーティングを行なう。

負けなければ良し、ミーティングなどはかえって緊張感を招くといった考え方もある。しかし髙橋は率直に「(若手選手への)自分の指示が徹底していなかった連携ミスが招いた失点になってしまって申し訳ない。ここでしっかり切り替えたい」と気持ちを示した。主将としてどうするかに注力するだけではなく、「ゴール前で存在感を出そう」と、プレーに集中した。

こうした心意気は、チームメートに伝わった。次の試合は、4位と好調だった広島を2-0で下して最終節に勝てば自力優勝ができる状態に。最終節は吉備国際大シャルムを6-1で退け優勝を決めた。

終わってみれば、JFA福島との勝ち点差はわずか2点(43点と41点)。勝利数も13勝と12勝と1勝違いと僅差となった。勝敗を決めたのは、リーグ最少失点の15点でゴールを守り切った守護神の存在感がチームを支えたからだ。

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ー王国静岡のプライドをかけた1部昇格と、ボニータの魂ー

舞い込んだ大役に戸惑う反面、主将となってみて、チームをまとめる自分なりの方法を持っているのにも気付けた。周りに目配りし、何をしたいのか気配りする。そんな人間観察の習慣をこう説明する。

「若い頃は、自分のリズムでプレーをするだけでした。それが、以前経験したドライバーの仕事で出会った職場の先輩に、色々教わりました。先輩はどんなに忙しい時でも、周りを冷静に見て、目配り、気配りを欠かさない。だから後輩にも適切な助言ができる。この方に限らず、色々な人に恵まれ、仕事で貴重なアドバイスをもらえたことが、ピッチでキャプテンという大役を務められた理由なのかもしれません」

以前の職場では、午前7時半から午後5時半までフルタイムで宅配便の仕事をこなし、現在も、地元静岡の企業でボニータのパートナー企業でもある「杏林堂」で、薬の配達サービスの仕事に就いている。火曜日から金曜日、朝8時から午後3時まで、走行距離は一日80㌔にも及ぶが、楽しい。

サッカー王国と言われてきた静岡だが、Jリーグオリジナル10として93年のリーグ発足時から参加している清水エスパルス、かつて黄金時代を作ったジュビロ磐田がともにJ2に陥落。そんな中、1部に昇格したボニータに、サッカーファンの期待は大きく膨らむ。

加えてチームの「魂」ともいえる、年間18試合で警告ゼロのフェアプレー精神にも多くの称賛が集まる。「審判に抗議をしたり、相手にファールをして試合を止めたら、それは警告となり、アディショナルタイムとなって結局自分たちに返って来るだけ。試合後にそれを悔やむくらいなら、自分たちのプレーに集中しよう、と声をかけたこともある」と、髙橋は話す。

今シーズンは皇后杯でC大阪堺レディースに敗れて終わった。来季、WEリーグに上がるC大阪と、スコアレスドローに持ち込み、最後はPK戦で敗れたが、なでしこリーグ1部に昇格した自分たちの「現在地」を実感する試合ともなった。ハードワークする、諦めない、フェアプレーを貫く。主将があげたこれらの持ち味をピッチで体現し、残留はもちろん、ひとつでも上の順位を狙うつもりだ。

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髙橋美春 プロフィール

1991年4月15日生まれ 愛知県出身 ポジション GK

静岡産業大学 磐田ボニータ→伊賀フットボールクラブくノ一→NGU名古屋FCレディース→スフィーダ世田谷FC→2019年より静岡産業大学磐田ボニータ(現 静岡SSUボニータ)所属

リーグ戦初出場:2011年4月10日

写真提供=静岡SSUボニータ

静岡SSUボニータURL:http://www.nadeshikoleague.jp/club/shizusan/

(連載担当 スポーツライター増島みどり)

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