連載コラム

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2023年01月18日

未来へ走るなでしこリーガー 第18回 濱本まりん(大和シルフィード・MF)

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ー1部昇格を果たした大和シルフィードで得点王 プロ選手・濱本まりんとクラブの目指す場所ー

「66」は、23年にスタートする新シーズンを1部で戦う「大和シルフィード」のエース、濱本まりん(28)が、昇格にいかに強い気持ちで、また「プロ選手」としてプライドをかけて臨んだのかを示す、圧倒的な数字だ。

なでしこリーグ2部のMVPを獲得すると同時に、13ゴールで2部の得点王のタイトルを同点(JFAアカデミー福島の板村真央)で獲得。チーム総得点のうち(37点)、35%にあたるゴール数は得点源としての役割を十分果たしたものだ。シーズンで放ったシュート総数66本は、同2位の足立英梨子(ディアヴォロッソ広島)の46本を大きく上回っていた。どんな場面でも積極的にシュートを打ってチームを鼓舞した勇気の表れだろう。

22年シーズン、濱本はクラブとプロ契約を結んだ。なでしこリーグでは、各クラブとも選手がサッカーを続けられるよう、さまざまな形で地域の企業、スポンサーの支援を受けている。そうした中、2部でもプロ契約を結べる選手、それを実現したクラブとして、大和と濱本の関係はリーグにとっても大きな刺激となった。

以前は障がい者の支援施設で仕事に就いており、肉体的にも厳しく、気持ちのうえでも余裕がなくなっていたという。22年シーズンを前に、プレーに専念したいとの思いが、Jリーグ横浜Fマリノスでフロントとして活躍し、将来のWEリーグ参入を目標にする大多和亮介・代表取締役の「女子サッカーを、環境からもレベルアップさせたい」との指針と合致。エースは強い責任感と、クラブへの愛着、プロとしての矜持を胸に22年シーズンに向かった。

優勝争いをしていた静岡には2敗してしまった。高橋和幸監督が描く、繋ぐサッカー、攻守の切り替えのスピード、常にボールが動くサッカーへの転換期は、シーズン序盤から簡単ではなかったようだ。1部に復帰できた感想を、大黒柱は「うれしい」ではなく、「ほっとした」と表現する。

「プロ契約を結んでいるのは私1人でしたから、身体のケアを接骨院で入念に行い、栄養面でも、栄養士さんの助言を取り入れて自炊するなど、姿勢は示したいと努力しました。サッカーに専念できたお陰で、以前は時間がなくてなかなかできなかったプレーの映像を見直す機会も、トレーニングのひとつとして取り組めます。次の試合のために、チーム内でのコミュニケーションをはかり、それぞれのプレーをさらにレベルアップできるように、自分が積極的に発信するようになった。サッカーでコミュニケーションをはかる。その難しさや大切さをかみしめた1年です。お互いが選手として尊重し合い、監督も、選手と、クラブをとても大切に始動をしている。ここで1部に上がりたいと強く思わせてくれました」


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ークラブの個性をいかに生み出すか なでしこ初の日産スタジアムでの主催試合に挑戦ー

1,2部両方を経験した28歳は「1年を通して、楽にできた試合は本当に1試合もなかった。2部のどのクラブも技術が高く、違ったサッカーをする」と、なでしこリーグのレベルの高さ、メンタルを含めた選手たちの強さを指摘する。

もともと、シルフィードの本拠地、神奈川県大和市は、「女子サッカーの聖地」とも評される土地柄だ。2011年W杯ドイツ大会を制した「なでしこジャパン」のメンバーで、現在はWEリーグ大宮でコーチを務める大野忍、海外リーグで活躍する川澄奈穂美、上尾野辺めぐみ、杉田亜未と輝かしい実績を持つ選手たちの出身地で、大和市は「女子サッカーのまち」作りを各方面でサポートする。

かつての読売ベレーザで、澤穂希たちと一時代を築いたGK、小野寺志保は現在、市役所に勤務し、クラブでのGKコーチとしても自治体の支援を繋ぎ、シルフィードを特別な存在にしようと努力する。

22年5月には、今年からパートナーシップを結んだ「日産自動車」の強いバックアップで、女子サッカーチームとして初めて、日産スタジアムでホームゲームを主催した。収容人数は最大7万2000人、2002年のW杯日韓大会では決勝のスタジアムとなった。第10節、三重戦の観衆は700人足らずだったが、「女子サッカーのまち」が踏み込んだ1歩は、地域や女子スポーツに取り組む企業にとっても、大きな励みとなったに違いない。

濱本のプロ契約も、シルフィードの挑戦のひとつ。WEリーグへの参加申請は、開始初年の21年はスタジアムの整備が間に合わず見送られたが、WEでもプロ契約選手が全体の60%ほどにとどまる環境下で、アマチュアリーグ2部でプロ契約を結ぶのは、将来への明確なビジョンあっての話だ。

京都出身で、大阪桐蔭高校を経て、FC吉備国際大学Charme、岡山湯郷Belle、AC長野パルセイロレディースとキャリアを積んで20年に移籍。4クラブでプレーし、28歳になってプロ契約を勝ち取り1部に復帰を果たした「遅咲きの」存在感もまた、多くの女性アスリートや、彼女たちを支援する企業にも多くのヒントを与える特色ではないか。

「私は、こういう監督の元で、こんなサッカーをしてみたい、と思って移籍先を選んできました。前に所属していた長野では、結果を出せずに終わってしまいましたが、本田(美登里)監督の下で、個人で打開する、局面に対してチャレンジするサッカーに取り組む経験ができました。監督やチームが求めるものに応えられず難しい1年ではありましたが、それまでは、どちらかといえば少ないタッチ数で、フィジカルのコンタクトも苦手だった自分が、新しいサッカーで成長できた実感はあります。それが、シルフィードでのプレーにも活きた、と思う。今は、チームと自分の目指す方向が一致したサッカークラブにようやく巡り合えたという気持ちです。地域への貢献でも、もっと何ができるのかを考えて行きたいし、人生の勉強として楽しみです。来季に向けて、色々な課題に取り組みたい意欲が湧いています」


28歳で手にしたプロとしての「居場所」に甘えることなく、濱本は来季の目標のため、オフには、身体の使い方をトレーニングで高めていくと話す。「女子サッカーのまち」から発信されるプレー、個性は、来季のなでしこリーグに吹く新たな風となる。

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濱本 まりん プロフィール

1994年10月9日生まれ 京都府出身 ポジションMF 

FC吉備国際大学Charme→岡山湯郷Belle→AC長野パルセイロ・レディース→
2020年より大和シルフィード

リーグ戦初出場:2013年3月23日 18歳165日

写真提供=大和シルフィード

大和シルフィード:https://www.yamato-sylphid.com

(連載担当 スポーツライター増島みどり)

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