連載コラム

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2023年01月20日

未来へ走るなでしこリーガー 第19回 吉岡心(JFAアカデミー福島・DF)

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▲ 2022プレナスなでしこリーグ2部 第16節 大和S vs 福島

ー女子サッカーの未来を見せる JFAアカデミー福島でフル回転した吉岡心ー

吉岡心/よしおか こころ(17=2018年入校13期)とオンラインで取材を始めたところ、WI-FIの具合が悪く、突然、画面も音も切れてしまった。何回かやり直してみたのだが、繋がらない。JFAアカデミーの担当者の機転で電話を受けて取材を再開。吉岡に「すみませんでした」と謝った時、「いえ、こちらこそすみませんでした。どうぞ宜しくお願い致します」と言われた。

アカデミーは、日本サッカー協会の育成プログラムの集大成という看板を背負ってなでしこリーグ2部(20年までチャレンジリーグ)に参加する。一方、アカデミー生たちは、ただサッカーの技術を習得するだけのエリートではなく、たとえティーンエイジャーであっても、地域、社会に貢献できるよう教えられている。吉岡のごく自然な受け答えに、その目標が日常に浸透しているのだと再認識した。

22年シーズン、福島は優勝した静岡SSUボニータの勝ち点43に次ぐ41点で2位に。47ゴールと、首位・静岡(37点)を大きく上回るリーグNO1の得点力を発揮し、個人得点ランキングベスト10にも、実に4人が食い込んだ。

失点も静岡(15点)に次ぐ17点で抑え、得失点差を2部最多の30にまで伸ばした。こうした堅守の中心選手として22年をフル回転でプレーしたのが吉岡だ。

春先に始まったリーグ戦を2位で戦い抜き、9月には日本クラブユース連盟所属チームと、全国高等学校体育連盟(高体連)所属チームがU―18世代の女子国内NO1をかけて対戦する「JFA U-18女子サッカーファイナルズ2022」で優勝。10月には、FIFA(国際サッカー連盟)Uー17W杯インド大会(準々決勝敗退)の代表にも選出された。

「リーグ戦で優勝できなかったのはとても残念でした。私自身の反省としては、一昨年からケガが続いた点です。3月に右太ももの肉離れをし、一度は治ったんですが、また痛めてしまい、さらにひざ痛も出たので、なかなか思うプレーができませんでした。これまで経験していないもどかしさのなかで、最初は、早くサッカーしたい、とばかり焦って・・・でも、試合でサポート役に回ると、今まで気が付かなかった同じポジションの選手のプレー、アイディア、それから私はDFなのでFWがこのタイミングでボールが欲しいんだ、といった'観るサッカー'でものすごく勉強し、ケガのなかで大きな収穫を得ました」

 ポジションは同じDFでも、プレーする舞台が変われば求められる役割も異なる。国内リーグ戦、カップ戦、最高峰ともいえるW杯、それぞれ違った舞台で、吉岡がもっとも大切に、磨いてきたのはコミュニケーション力だという。

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▲ 地元京都の嵐山でモンブランパフェを食べる。

 ー声を出す、プレー以外にそれも選手としての特別な持ち味になるー

 アカデミーでは在籍中、ポジションをひとつに定めず様々な角度からサッカーを見る。吉岡も、ボランチからサイドハーフ、そして現在のDFと少しずつ後方での視野を広げてきた。サッカーでもっとも大切にしているものを聞くと、「コミュニケーションです」と即答する。シュートを打たれる際でもコースを切るために声を出す場面や、後ろから全体を見てもっと詰めたほうがいいなど、チームメートに出す声を常に考えてプレーする。的確なコーチングが試合を左右する重要さを、すでに知っている。

 「声も、DFとしてとても大事な持ち味になる、とほめてもらった経験がきっかけになりました。インドでのワールドカップでは、スペインに敗れましたが、改めて、なでしこリーグでは選手がよくコミュニケーションをはかっているような気がします。いつか、なでしこジャパンでプレーする選手になって、澤さん(穂希、11年ドイツ大会優勝時は主将)のような強いメンタルの選手になりたい。男子のカタール大会でも、長友さん(佑都)や、三笘選手(薫)の1ミリに代表されるメンタルのちょっとした違いが勝負を分けると思います」

18年、京都から親元を離れて入校しただけに「当時はホームシックにかかったのでは?」と聞くと、吉岡は「教わる内容も、先輩方のプレーも内容が濃すぎて、本当に毎日食らいつかないと脱落してしまいそうだった」と振り返って笑った。「毎日に食らいつく」とは、実感がこもった表現である。
 「JFAアカデミー福島」は、11年3月の東日本大震災により福島県内での活動ができなくなり、同年4月から静岡県御殿場市にある時之栖にて活動を再開し、また女子は15年8月から静岡県裾野市にある帝人アカデミー富士の一部を練習場、寮として利用してきた。21年に段階的に福島県広野町に帰還した男子に続いて、24年4月に中高そろって楢葉町に戻る予定だ。

学業が最優先され、練習は学校が終わった後2時間のみ。帝人や地元の支援を受け、中高生たちでも、地域の交流会や、時には稲刈りなど積極的に参加する。ともすれば、エリート校としてサッカーのみに集中する形になりかねないが、なでしこリーグに参戦するなかで、高校生たちは社会性を鍛えられている。他の競技団体では高校生が単独でアマチュア最高峰リーグに参戦する前例は乏しく、継続的な参加は他競技にも大きな影響をもたらす。

アカデミーを卒業したら、プロリーグ「WEリーグ」に加入したいと、吉岡は願う。

高校生として学び、なでしこリーガーとして毎週レベルが高く、フェアプレーを尊重するサッカーに触れる。福島、静岡でサッカーに専念できる機会を与えてもらった感謝を、地域社会とのつながりで実感する。すべての役割を、ピッチと、ピッチ外で果たそうと「毎日に食らいつく」17歳は23年、なでしこリーグ最後の1年に臨む。

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▲ 帰省中の夕食。束の間の家族団欒。

吉岡 心 プロフィール

2005年7月17日生まれ 京都府出身 ポジションDF 

京都城陽サッカークラブ→2020年よりJFAアカデミー福島

リーグ戦初出場:2020年10月11日 15歳86日

写真提供=J.LEAGUE / JFAアカデミー福島

JFAアカデミー福島:https://www.jfa.jp/youth_development/jfa_academy/fukushima/

(連載担当 スポーツライター増島みどり)

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