連載コラム

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る

2023年01月27日

未来へ走るなでしこリーガー 第20回 長野涼華(審判員)

1655024492380.jpg

▲ U-15中国リーグの試合前ミーティング

ー選手、指導者、審判として、サッカーをとことん追求する女性審判ー

昨年のW杯カタール大会では、W杯史上初めて女性審判員が起用され大きな注目を集めた。山下良美氏(36=JFAプロフェッショナルレフリー)を含めて3人の主審と、3人の副審、計6人の女性審判員が選出され、日本代表が戦ったE組のグループリーグ最終節、ドイツ対コスタリカ戦ではステファニー・フラッパール氏(38=フランス)が主審を担当。女性副審2人とともに「女性トリオ」が歴史の1ページを刻んで見せた。

主審として笛は吹かなかったが、山下氏は6試合で第四の審判を担当。試合中、3人の審判員に何か不測の事態が起きた際に交代して役目を引き継がなければならず、緊張感の高い任務を全うした。

長野涼華審判員(24=山口レノファU18女子チーム監督)も、もちろん山下氏の雄姿や、大会の笛の流れを決定付ける開幕戦、カタール対エクアドル戦のジャッジをテレビで追い続けた。女子1級審判員として、国内では「なでしこリーグ」も担当する24歳には、将来国際審判員となり、大舞台で主審を務める機会がめぐってくるだろう。

 山下氏の立ち姿に、凛とした清々しさや、強いメッセージが込められていたように見えたという。

「山下さんが第四の審判にあたる様子にも、堂々としたものを感じました。私は、サッカーの魅力を引き出す審判になりたい。試合が終わった時、選手が'あなたが審判でこの試合に出場できて良かった'と言ってくれたら理想的ですし、観客にも、いい試合を観られた、と満足してスタジアムを後にして頂きたい。選手、指導者、観客、そして審判としての自分自身が、それぞれのサッカーを楽しめたら素晴らしいと思う。簡単ではありませんが」

リーグのシーズン以外にも、地域で様々な試合の担当に入るため、審判として常にコンディショニングに気を使い、ランニングは欠かさない。

20220808_083711.jpg

▲ U-18女子クラブユース全国大会決勝

ーユニークな「3足のわらじ」を履く理由ー

宮崎県延岡市出身で、地元の西階中から「サッカーにもっと真剣に取り組みたい」と、未来のなでしこを夢見て宮崎市内の宮崎日本大学高校へ進学した。この際、父親とずい分大変な約束を交わしてしまったようだ。日大には寮があったが、父から「3年間通うこと」と言われ、うなずいた。

朝練習のため、延岡発5時30分の始発に乗り、練習後は、宮崎発午後9時30分の最終に乗らなくては帰宅できない。高校1年で全国大会に出場を果たすなど、高いレベルのサッカーにも触れた。それにしても、この通学を3年間やり抜いた意志に驚かされる。

「何度か、寮に入りたい、と言ったんですがダメでした。今思っても、ホントにきつかったです。そこまでしても続けられるかどうか、サッカーへの本気度を父は見ていたのかな、と今は思いますが・・・いずれにしても、もうできません!」

そう振り返って笑う。

選手としてサッカーに注いだ情熱は、この後、さらに強く、深く進化していく。

高校を卒業後、山口県の徳山大(22年4月から周南公立大に改称)でサッカーを続ける。1年生のある日、親善を兼ねてアメリカのチームと対戦することに。未知の外国チームを相手に、正確に、堂々と試合をコントロールした審判の先輩に感激し、審判をやってみたいと思うようになった。

プレーヤーでは感じられなかった「自分がサッカーの試合を作り上げているような高揚感」(長野審判員)に、1年生で3級、2級、4年で1級への推薦を打診されるほど審判のキャリアに引き込まれた。

しかしここで審判一筋にならないのが、ユニークなところだ。

「審判を務めて、地域の試合に呼んで頂く機会が増え、子どもたちから大人まで色々なサッカーを観られるのも楽しく、とても勉強になりました。そういうなかで、スクールで子どもたちや、中学、社会人レディースに指導をしてみたい、と思うようになりました。選手として、審判として、そして指導者としても、もっとサッカーを知りたいと、指導者ライセンスの取得を考えたのです」

選手を引退して指導者、選手を辞めて審判、といった例はあるかもしれないが、選手、1級審判、クラブのアカデミーで指導者と、1人で同時進行する「サッカーの3足のわらじ」を履きこなした例は多くない。将来は、女子監督として、「トップリーグで戦ってみたい」という夢も明かす。

うれしい反応もある。指導者として中学生たちと日々過ごしている中で、彼女たちが試合中の様々な局面について、「あの場合のジャッジは?」など、 長野審判に質問を投げかけるケースが増している。そしてチームの15人もの中学生が、審判講習会に参加し4級を取得してくれた。

選手としてだけではなく、審判としての視点も持つことで、サッカーへの取り組みも変化する。予想できなかった喜びだ。

ー審判が見るなでしこリーグー

なでしこリーグを担当するようになり、選手がファールを告げると、「(ファール)なの?」とか「どうして?」といった反応に、特徴があると分析する。それは、抗議とか、試合を遅延させる行為とは少し違うようだ。

「なでしこリーグの選手たちは、観客の方々とのつながりや地域性がとても強く、審判に積極的にコミュニケーションを取ります。ファールも、'さぁ次のプレーに行きましょう'など、うまく交わして進めるようにし、私自身、もっと選手とコミュニケーションをうまく取り、選手と試合を作るよう意識したい。審判の中には、選手の一言にとても落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。私は、気持ちの切り替えを大事にし、暴言などでも冷静に対応していけるのは長所だと思います」

地域リーグには、ブラジル人選手も在籍し、コミュニケーションは英語でも重要になってくる。今後は語学力も磨く。

選手、審判、指導者と、長野審判が履くわらじには、サッカーへのどん欲な探求心と、深い愛情も一緒に編み込まれている。

1641642520724.jpg

▲ 買い物に行った際のプライベート写真

長野涼華 プロフィール

宮崎県延岡市出身 JFA登録女子1級審判員

2016年1月に審判資格(4級)を取得して審判活動を始め、

2021年12月に女子1級へ昇級。

なでしこリーグ主審 初担当

2022年4月16日 なでしこリーグ2部 第4節 福岡AN - 湯郷ベル

本人写真提供

(連載担当 スポーツライター増島みどり)

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る