―未来に向かって走り出した16歳のなでしこリーガー 期待の2シーズン目へ―
20回に渡る連載に登場してくれた選手のうち、恐らく最年少の「なでしこリーガー」だ。「福岡J・アンクラス」のフロントサイドはきっと、今季への期待やクラブでの成長・・・色々と検討して16歳の高校生、庄司美優に取材の機会を設けてくれたのだろう。
一方本人は、「自分でいいのだろうか?」と、初の取材にとっても緊張していたはずだ。
オンライン取材には、なでしこの選手たちにとって大先輩でもある河島美絵監督が、「取材の邪魔になったり、本人が緊張してはいけないので」と、スタッフに代わってわざわざ画面オフで参加。
グランドコートやダウンがかかった部屋で、見栄えなんて気を回さずオンラインにつなぐ16歳の真っすぐさと、本当は、画面オフにしながらも庄司以上に緊張して取材を見守る監督、2人の様子を画面で見ながら、「未来に寄せる期待」という空気が、形になって見えているようで微笑ましかった。
22年10月に、所属している下部組織「ANCLASノーヴァ」からトップチームに抜擢される。福岡出身の庄司にとって、合同練習に参加するだけでも憧れの場所は、年齢に関係なくサッカーを楽しんでいるセンパイたちが作り上げたクラブで一番年齢が若い庄司から、最年長まで、コミュニケーションがとても取りやすい。
トップチームの練習に参加し始めた頃は、緊張し過ぎて、パスが目の前を行き来するのをただ見ていたようだ。
庄司はこんな風に振り返り、恥かしそうに笑った。
「パスの質も高くないし、ドリブルも全く上手くなくて、さらにすごく緊張している。最初のころはそんな状態でしたから本当に不安が大きかったです。でも、ミスをしてもチームメートに声をかけてもらい、試合の実践のなかで少しづつ、少しづつ、トップチームでのプレーに慣れて行けました。今季は、そんなことは言っていられないので、チームに貢献できるように頑張りたいです」
1月の終わり、トップチームは厳しい寒波に見舞われた福岡の百道浜(ももちはま)で足腰にあえて負荷をかけるランニングを行っていた。
1週間のうち、月曜日と水曜日、金曜日は午前中にトップチームの練習に参加する。火曜と木曜はノーヴァの練習で、週末には試合に帯同。憧れのトップチームに加入できた喜びはもちろん、難しいスケジュールをこなせる原動力だが、ペースを掴むのは簡単ではない。
しかし庄司にはサッカーを日常生活に溶け込ませてくれる心強い「チームメート」がほかにもいる。小学校1年の時、コーチを務める父のクラブチームで、6歳上の兄を追ってサッカーを始めたという。
▲ 家族との初詣 (本人写真提供)
スポーツは大好きだったが、バスケットボールは3歩歩けば反則になるし、野球も三振でアウト。「子どもでも、サッカーはずっと遊べる、と魅力を感じました」と言う。男の子に混じってプレーをするが、コーチの父からも「自分が好きなように、好きなプレーをすればいい!」とだけ、大らかな指導を受ける。
一方で、女子ジャンプの第一人者、高梨沙羅がジャンプ台を踏み切る際の姿勢、重心の低さを父が研究。「動きの中でもしっかり意識するといいよ」と、サッカーで大事な体幹の使い方を、分かりやすく教えられた。
ドリブルが得意な兄には、ボールをおす、そんな遊びのような練習もよく付き合ってもらう。DFとして重心が高いと、「(ひざが)開いとうよ」と、ひざが開いてしまい、抜かれやすいと指摘される。
「兄の存在は身近過ぎていつでもお手本ですが、サッカー選手として目指すとなると、一番遠い存在なのかな、と。今は、トップでのパスの質やスピード、ドリブル、ビルドアップと課題が山のようにあって・・・。せっかく試合で使って頂いても、貢献しなければならないので、今年は積極的にプレーをしたいと思います。なでしこリーグ1部に昇格するのを目標にしていきます」
福岡は昨年、勝ち点18と、首位の静岡(43)、2位の福島(42)に大きく差を広げられての5位。攻撃力は課題になるが、失点22が、中位で踏ん張れた一因だ。連携した守備をさらにクラブの持ち味とするためにも、庄司への期待は大きい。
取材中、ずっと画面をオフにして見守っていた監督にようやく登場してもらった。
「初めてでしたが、とてもしっかり受け答えしてくれて感心しました。実は、新シーズンに向けて新しい背番号を決めたばかりなんです。庄司さんには、(昨シーズンの24番から)5番を背負ってもらうつもりです」
画面の中の庄司は、うなづいて唇を結んだ。
庄司 美優 プロフィール
2006年11月1日生まれ 福岡県出身 ポジションDF
2022年下部組織登録選手 ANCLASノーヴァ
リーグ戦初出場:2022年05月08日
福岡J・アンクラス公式サイト:https://anclas.jp/
(連載担当 スポーツライター増島みどり)