ー大雪の札幌で地道に体づくりをするノルディーアの選手たちー
1年もの長きに渡って多くの選手に話を聞いたぜい沢な連載は今回、リーグに加盟するクラブでは唯一、北海道から参戦する「ノルディーア北海道」にようやくたどり着いた。
新シーズンを目指してオフが明けた1月、安達沙織(19)と東京からのオンライン取材を繋いだ。ほかのクラブとは違い、札幌は降雪もあり、グラウンドでの練習には3月中旬にならなければ取り組めない。本拠地でもある「札幌サッカーアミューズメントパーク」の屋内練習場のほか、クラブは札幌市内の体育館施設が市民開放される際の抽選に公募、何とかボールを蹴る環境を確保している。
話を聞いたのは、ちょうど身体づくりが始まった頃で、それぞれが自分のメニューを消化している1月末だった。安達は、筋トレと、約5キロを30分ほどでランニングするメニューを毎日こなしているという。
23年年明けから札幌は大寒波に見舞われ、ニュースでも1月は10数年ぶりの降雪量であるとか、平年の1月の降雪量を大きく上回っていると伝えられていたので、「外を走れるの?」と聞くと、安達は「はい、特に問題ないです。だいぶ雪が(除雪されて)高く積まれてはいますけれど、慣れていますから走っています」と笑う。
「積雪でいちいち騒ぐのは、東京で暮らす人間の無知だね」と、謝った。
22年シーズン、北海道大谷室蘭高校から新加入し、ルーキーイヤーながら18試合に出場と、7位(勝ち点16)となったクラブの成績に貢献した。本来はボランチとしてプレーして来たが、昨シーズンはCBに抜擢。最後列に立つのとボランチでは視野の取り方も全く異なり、中盤ではあまり取り組まなかったヘディングもうまくできない。環境の変化に、ポジションの変化も加わって苦戦した。
「初めてのポジションでしたし、不完全燃焼で、このプレーが印象的と言えるような試合がありませんでした」と、1年通して戸惑い、対応しながら、守備の中心選手としての役割を担った。
高校卒業後、ノルディーアでサッカーを続けようと選択したのと同時に、進学し自分の目標も叶えようと考える。
ケガをした時に、サッカーをやっていた経験を生かして、患者を少しでも支えられないか。それを目標に、目指すのは整形外科の看護師だ。
ー大学、病院実習、練習を続けるー
北海道科学大学(札幌)の保健医療学部に所属し、4年生で受験する看護師の国家試験に向けて勉強を続けている。新型コロナウイルス感染症の流行がまだ完全には収まらない中、看護実習を病院で行うには神経も使わなければならない。
平均的な1日のスケジュールはかなりハードだ。
朝8時には家を出発。大学で3限まで講義を受ける。その後、様々な分野で出される課題をこなし、一度帰宅して午後5時過ぎに夕飯を先に摂る。練習から帰宅すると遅くなってしまい、宿題や課題に取り組む時間がなくなってしまうからだ。
その後、午後6時に自宅を出て、7時からの練習に臨む。時間は2時間なので、チーム、個人の課題を明確にして集中してトレーニングを行うように心がける。練習から帰宅すると午後10時過ぎになるが、入浴し、練習場ではなかなかできないストレッチもケガの防止にしっかりと取り組む。課題はまだ終わらないので、就寝できるのは午前1時を回ってしまう。
「サッカーだけが中心だった高校時代から、進みたいと思う看護の勉強とサッカーの両立をするようになりましたが、勉強は大変です」
安達は笑いながら、難しそうな解剖学のテキストを画面に向かって見せてくれた。確かに、難しいイラストと文字がぎっしり書かれている。
「でもノルディーアは私にとって憧れの地元のクラブですし、幅広い世代でサッカーができるのは本当に楽しいです。アウェーの試合でミスをして勝利を逃がした時には、あまりの悔しさとふがいなさに、後泊のホテルでも泣いて、泣いて、翌日は目がボーッと腫れてしまいました。でも、先輩に、美味しいもの食べようか、と慰めてもらい気分転換できました。両立は難しいですが、両方があるから楽しい面もあると思います」
CBで過ごしたルーキーイヤーだったが、ボランチとして攻撃の起点や、ゴールを決定付けるスルーパスを出すのにやりがいを感じる。「守備でも攻撃でも、常にいいポジションを取ってピンチとチャンス両方で仕事ができる」と、憧れの選手は日本代表としてカタールW杯でも活躍した田中碧。
今季、米山隆一・新監督を迎えた新たなシーズン、安達は「初ゴール」と、自分の1年目の経験を今年加入する後輩たちに「少しでも伝えられれば」と2つの目標を持っている。
―日本代表も、WEリーグもなでしこリーグが支えるー
フルタイムでの勤務をこなして、帰宅するサラリーマンで満員の通勤電車に乗って夜のピッチに向かう選手、工場のラインに立って作業をしてから練習に駆けつける選手もいた。
遠距離であっても、授業と所属クラブの練習を懸命にこなす高校生なでしこリーガーも取材し、仕事と育児とサッカーの3つの役割を前向きにこなし、或いは度重なる大けがにも諦めずにサッカーと向き合い、愛し、プレーする選手たちに話を聞く機会を得られて本当に幸運だった。
なでしこリーグに所属する全クラブが、クラブの存在意義を常に考えつつ環境の整備に取り組み、地域や企業のサポートを受け、ファンに支えられ、選手は応えようと懸命にプレーをしている。なでしこリーグとは別のリーグとなって2年目を迎えるプロフェッショナルリーグ「WEリーグ」も、女子日本代表「なでしこジャパン」も、全国に存在するこうしたなでしこリーガーたちが支えている。彼女たちは女子サッカーの「原点」だから。
1部の「アンジュヴィオレ広島」は、11年の女子W杯ドイツ大会優勝を追い風に、12年に発足。企業母体を持たない市民クラブは昨年、経営難を理由に解散した。どのクラブも同じ課題、問題を抱えているはずだ。W杯が7月に行われる(ニュージーランドとオーストラリアの共催)今シーズン、女子サッカーをどう支え、さらに活気付かせていくのか、その姿勢や工夫が、関係者に改めて問われる1年になる。
【ノルディーア北海道】
安達 沙織 選手 背番号6
2003年5月3日
出身地:札幌市
前所属:北海道大谷室蘭高等学校女子サッカー部
→2022年よりノルディーア北海道
初出場
2022プレナスなでしこリーグ2部 第1節 2022年03月26日
静岡SSUボニータvsノルディーア北海道
ノルディーア北海道公式HP:http://www.norddea.jp/
(連載担当 スポーツライター増島みどり)