連載コラム

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2021年12月08日

なでしこリーグの歴史を知ろう 第19回「INAC神戸の躍進」

日本で女性がサッカーをプレーすることが珍しかった時代から、女子サッカーリーグ開幕、女子ワールドカップ優勝、女子プロサッカーリーグ創設、また、女子サッカーを取り巻く環境、そして社会情勢は大きく変化してきました。
年内にかけて全22回の連載を予定しています。激動の日本女子サッカーの歴史を振り返ります。
(毎週水曜更新)

©JFA.png

プレナスなでしこリーグ2011 第2節 アルビレックス新潟レディースvsINAC神戸レオネッサ@東北電力ビッグスワン(2011/8/6)

 2011年、なでしこジャパンのFIFA女子ワールドカップ優勝により、日本では女子サッカーへの関心が大きく高まりました。その関心を一身に受けたのがINAC神戸レオネッサでした。
 なでしこジャパンのキャプテンで、女子ワールドカップではMFとして活躍、得点女王とMVPのダブル受賞をした澤穂希とともに、GKとしてアメリカとのPK戦で活躍した海堀あゆみ、右サイドバックとして全試合フル出場した近賀ゆかり、準決勝のスウェーデン戦で2得点して、一躍なでしこジャパンのエース格になったFW川澄奈穂美、メキシコ戦で1点を決めたFW大野忍、そして若手DFの田中明日菜と若手FWの高瀬愛実と、実に7人ものなでしこジャパンがいたからです。
 この年の「プレナスなでしこリーグ」は、女子ワールドカップの大会前に前期9節、大会後に後期9節を開催する予定でしたが、東日本大震災の影響で前期全36試合の3分の1にあたる12試合が大会直後に組み入れられていました。INAC神戸は、延期になっていた第1節のジェフユナイテッド市原・千葉レディースとの試合を女子ワールドカップ決勝戦のわずか1週後、7月24日に開催しました。
 会場はホームズスタジアム神戸。現在はノエビアスタジアム神戸と呼ばれている2002年ワールドカップ会場です。この試合に、なんと1万7812人ものファンがかけつけたのです。さらに翌週、神戸ユニバースタジアムで行われた第3節の岡山湯郷Belle戦は、相手の湯郷に女子ワールドカップで澤とともに攻撃を牽引したMF宮間あやが在籍していたこともあり、入場者2万1236人を記録しました。
 どちらの試合もなでしこジャパンの選手が活躍し、市原・千葉戦は大野が2得点して2-0、岡山湯郷戦では田中が得点して3-1で快勝。ファンを喜ばせました。
 「フィーバー」は続きます。岡山湯郷戦の翌週、8月6日に、INAC神戸は新潟に遠征し、アルビレックス新潟レディースと対戦します。このチームには、澤とボランチを組んだMF阪口夢穂と、左利きのテクニシャン、MF上尾野辺めぐみがいました。公式入場者数は2万4546人。これが現在も残るなでしこリーグの最多観客記録です。試合は澤の2ゴールでINAC神戸が2-1の勝利。新潟の1点は上尾野辺でした。
 この試合はJリーグのアルビレックス新潟対清水エスパルスとの「ダブルヘッダー開催」でしたが、ファンがJリーグのついでになでしこリーグの試合を見たわけではないことは、さまざまな数字から明らかです。新潟対清水の公式入場者数は3万7830人。満員でした。これはアルビレックス新潟にとってこのシーズンの最多観客で、シーズンの1試合平均が2万6049人だったことを考え合わせると、この試合もやはりなでしこたちの活躍を楽しみに集まった人が1万人以上いたことがわかります。
 一方、INACのホーム2試合は単独開催でした。この年、Jリーグのヴィッセル神戸はJ1で9位という、それまでで最高の成績を残しましたが、1試合平均の入場者数は1万3223人。INAC神戸の人気がいかに高かったか、この数字を見るだけでも明らかでしょう。
 INAC神戸レオネッサは2001年に創立され、2003年に兵庫県リーグ1部で優勝、2004年に関西リーグ1部で優勝し、2005年になでしこリーグ2部(L2)に昇格します。この年にFWプレチーニャ、MFラファエラというブラジル代表2選手を補強、15試合で20得点というプレチーニャの活躍もあり、圧倒的な成績でL2を制覇し、2006年には1部に上り詰めます。
 プレチーニャは1975年生まれ。神戸にきたときにはすでに30歳でしたが、16歳のときからブラジル代表で活躍し、2008年の北京オリンピックまで、実に女子ワールドカップ5大会、オリンピックに4回出場。すでにブラジル女子サッカーの「レジェンド」といった存在でした。小柄ながらスピードと決定力をもち、2008年までINAC神戸で活躍しました。
 なでしこリーグ1部に昇格した後も積極的に補強を行ったINAC神戸は常にリーグの上位をキープ。2010年度には、全日本女子選手権(現在の皇后杯)で初めてのメジャータイトルを獲得します。そして2011年のシーズンを前に、澤、大野、近賀の3人を「女王」日テレ・ベレーザからの移籍で補強、さらに韓国代表MFチ・ソヨンも加わり、一挙に優勝候補の筆頭に躍り出ました。そうしたなか、選手の多くがプロとなっていきます。
 日本社会全体からの大きな注目、スタジアムを取り巻く熱気にも惑わされず、INAC神戸はこの2011年のなでしこリーグを無敗で終え、初優勝を果たします、そして2012年、2013年と3連覇を果たし、皇后杯でも2013年度まで4連覇を飾るのです。
 育成をベースになでしこリーグをリードしてきたベレーザに対抗し、プロ的なチームづくりで女王の座に昇り詰めたINAC神戸。間違いなく、日本の女子サッカーに新しい時代が到来していました。


文=大住良之(サッカージャーナリスト)
写真=Jリーグ

(つづく)

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