連載コラム

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2022年01月27日

日本全国なでしこリーグの街を訪ねて つくばFCレディース編

日本は人口減少時代に入ったといわれますが、茨城県つくば市の人口は34年間連続で増えています。研究学園都市としても知られるつくば市には、若いファミリー世代が多く移り住んでいます。

つくばFCは、筑波大学のあるこの街に生まれ、プレーすること、スクール事業をすることに加えて、天然芝グラウンドを広めたり、地域の幼稚園、保育園、小学校にスタッフがサッカーを指導に行ったり、地域の様々なイベントにも参加したりしています。今回はつくばFCレディースのスクールコーチでもありフロントスタッフ(営業・広報)でもある藤井志保選手(しほコーチ)と一緒に、つくば市の皆さんを訪ねます。

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つくばエキスポセンター

ボールを蹴ってスポーツの楽しさを学ぶ
竹園学園つくば市立竹園西小学校 校長 飯島孝子さん

つくば市にはゲストティーチャー事業と呼ばれるプログラムがあります。外部の専門家が学校を訪ねて、楽しい指導をしてくれるのです。この日、竹園学園つくば市立竹園西小学校を訪れたのは藤井選手をはじめとするつくばFCのスクールコーチ。一人一個のボール、たくさんのゴールを使ってサッカーを体験する授業を行います。子ども達は、大きな声を張り上げて、グラウンドを全力で走り回ります。

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竹園学園つくば市立竹園西小学校 校長 飯島孝子さん(右)、つくばFCレディース 藤井志保選手(左) (※撮影時にマスクを取りました。)

校長の飯島孝子さんは、笑顔で子ども達を見守ります。
「専門の人たちが上手に子ども達に、サッカーの楽しさや身体を動かすことの楽しさを教えてくださることは、子供たちにとって新鮮。楽しいことです。学校としては、とてもありがたく思っています。それに、教員にとっても新しい指導法を知る勉強になります」

当然のことながら、子ども達は男女が一緒にボールを追いかけます。そして、コーチは藤井選手に加えて男性のコーチも3名が参加。
「サッカーは男の子だけのスポーツではなく、女の子もやれるスポーツだということを子ども達に伝えてくれる存在でもあります」
男女のチームが存在するつくばFCは、子ども達に、性別にとらわれない無限の可能性を伝えてくれます。つくば市民にとって、女子サッカーはどのような存在なのでしょうか。
「この街には筑波大学があり、オリンピック選手がたくさん出ています(女子サッカーでは熊谷紗希選手、南萌華選手らが卒業生)。安藤梢先生(三菱重工浦和レッズレディース)は筑波大学の助教ですね。つくばFCレディースからも、これから、ますますご活躍される方が出てくるのだろうと期待しています」
つくば市では、つくばFCをはじめとする女子サッカー選手らが、スポーツの楽しさを市民に伝えています。

練習グラウンドを作り地域が発展する
横田正雄さん

つくばFCは、複数の練習グラウンドを使用しています。そのうち一つの人工芝の練習グラウンドを開設するのに尽力したのが横田正雄さんです。現在は農業をされている横田さんは、選手のために大根を持参してクラブハウスに現れました。

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横田正雄さん (※撮影時にマスクを取りました。)

横田さんは、以前は茨城県職員として働いていました。茨城県からの派遣で筑波大学にも勤務。筑波大学先端学際領域研究センターに勤務しているときに、森岡理右さん(筑波大学名誉教授)との交流が始まります。森岡さんは筑波大学蹴球部を設立し、優れた人材を輩出し続け日本サッカーの発展に寄与されてきた日本サッカー界のレジェンドです。
つくばFCは、1993年に、当時は筑波大学の大学院生だった石川慎之助さん(NPO法人つくばフットボールクラブ理事長)が、森岡理右さんの後押しを受けて設立しました。
「森岡先生には2年間、相当お世話になりました」
横田さんは当時の仕事を振り返ります。そして、そのご縁が練習グラウンドの開設につながります。
「(練習グラウンドの開設は)森岡先生からのお話だったものですから、石川さんの依頼は全部聞いてあげようと思いました」

つくばFCは公共のグラウンドを借りるのではなく、自前で練習グラウンドを作ろうとしていました。横田さんは、近くの集落に住んでいて、自分の所有する土地に隣接する山林や雑木林を練習グラウンドにするために、複数の地権者との交渉をまとめました。その結果、練習グラウンドは完成。さらに、次の拡張工事で、横田さん自身の所有する土地も練習グラウンドになります。

横田さんの畑では、さつまいもを作っています。人手が足りないので、つくばFCレディースの選手に手伝ってもらっています。藤井選手も畑に足を運びます。
「さつまいもの選別は難しいです。焼き芋屋さんから届いた規格表通りにさつまいもをコンテナに入れます。そうしないと、値段が下がっちゃうんです。形、長さ、それから太さ......それに虫がついているかどうかと重さ。それをテキパキとやってくださいます。藤井さんは、普段は穏やかな仕事をやっているのに......プレーは激しい動きでやっていますね」
横田さんは、サッカークラブは地域の大きな存在だと思っています。練習グラウンドができると通う人の往来が増え、地域が賑やかになりました。そして、アクセス道路が拡幅整備されることになりました。

横田さんは、つくばFCの未来について、このように話してくれました。
「私が立派だと思うのは、石川さんが『全ての人が生涯にわたって素晴らしい環境でスポーツができるようにしたい』と言っていることです。そんなことはなかなか言えないですよね。その考えは、会員のいろいろな世代に、きちんと受け入れられているので、つくばFCの活動をこれからも続けてもらいたいと思います」
つくばFCは横田さんの力添えで、地域の人々がスポーツを楽しむための、さらに良い環境を手に入れます。

スクール生でありサポーターでもある
高野忍さん、寺門敦子さん

つくばFCのサッカースクールには、キッズから社会人まで、たくさんの人が参加し、どのクラスもアットホームな雰囲気でプレーしています。今回の取材の最後に、お話をうかがうのは、毎週水曜日の女性クラスに参加している高野忍さんと寺門敦子さんです。女性クラスの担当コーチは藤井選手です。

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高野忍さん(左)、寺門敦子さん(右) (※撮影時にマスクを取りました。)

「元々、運動が好きでいろいろ探していたら、女性クラスを見つけました。サッカーをやったことはなかったけれど面白そうだと思って始めました。同じ年に、後から息子も入りました(笑)」
というのは高野さん。子育てをしている高野さんには、平日の昼間のクラスの方が入りやすかったのだそうです。楽しさが予想以上で、今ではどっぷりとハマっています。
寺門さんは、順番が高野さんとは逆でした。
「子どもがつくばFCに入りたいと言って、まず先に入りました。私はその後で入りました。入った頃は、体力作りみたいな感じだったのですが、だんだんと、コーチが変わるに従って交流が深まり、本当にチームになっています。技術的には全く進歩していないですが楽しいので続けています。しほコーチとは、ずっと長いです(笑)」

技術の進歩よりもサッカーへの探究心が前に進みます。藤井選手(しほコーチ)が担当してから、より気軽に質問できるようになりました。
「『あの2対1の局面で前に出た方が良いのかディレイした方がいいのか』といった、選手間で話し合っているようなことを聞かれます(笑)」と苦笑いする藤井選手。
そんなお二人にとって、つくばFCレディースは憧れの選手達のチーム。週末はスタジアムに応援に行きます。「コーチのときと違う顔を見るのが楽しい」というのは高野さん。「(プレー中のしほコーチは)関西弁が出ているじゃん(笑)」というのは寺門さん。スタンドでは、スタジアムで頻繁に顔を合わせるスクール生、サポーターにも会うそうです。お二人とも、生活の中でサッカーが占める比重が、年々大きくなっています。つくばFCレディースに、これから何を望むのでしょうか。

高野さんは、昇格を楽しみにしています。
「トップチームとつくばFCレディースは上を目指してほしいと思います。スクールの子ども達はコーチたちが選手として頑張っているのを見て憧れています。ぜひ、なでしこリーグ1部昇格を目指してほしいです」
寺門さんは、存在感に期待します。
「つくばと聞いたらつくばFCを連想する、アイコンみたいな存在になってほしいです。そんなチームをずっと応援できる立場でありたいと思います」

学校でゲストティーチャー事業を見学し、クラブハウスでクラブの生い立ちと心強い地権者のお話を知り、スクール生でありサポーターでもあるお二人のお話を聞いて、若いファミリー世代が、この街に移り住んでくる理由が少し分かったような気がします。つくば市は、暮らす人々がいずれもフレンドリー。そして、スポーツと学びの環境が充実した街でした。

今回はつくばFCレディースのホームタウン・つくば市の皆さんを訪ねました。

Text by 石井和裕

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